ホーム > 読み物コーナー > 釣り餌の"商虫"列伝 > 商虫列伝(1) 国産の天然もの

スジツトガ Chiro sacchariphagus (写真E-1・2)
[釣り餌名:ささ虫]

 オギの茎内にひそむ幼虫を、茎ごと切り取って渓流魚用に販売。釣り餌への利用も商品化も比較的近年のことと思われる。その正体は、このたび専門家の服部伊楚子さんの同定によってはじめてわかった。

 スジツトガ(旧名スジノメイガ)は、熱帯においてはサトウキビの害虫として知られるが、日本では本州・四国・九州から記録されているものの、きわめて珍しい種類であるという。 微小な侵入孔のあるオギの茎20本入りの袋で380円。

 服部さんはその安さと商品化されていることに驚き、さっそく釣具店に出向いたが、採集場所などは何も聞き出せなかった由である。こんな特殊な虫が商品化されているのに、 イネの害虫で人工飼料も開発されている同属のニカメイガC.suppressalis がお呼びでないのは不思議である。

E-1 「ささ虫」(スジツトガの幼虫)の売品 E-2 同、拡大と中の幼虫


アズキノメイガ Ostrinia scapulalis (写真F-1・2)
[釣り餌名:いたどり虫]

 越冬幼虫10匹をチリ紙とともに容器に入れ、渓流魚用に400円で販売。同定は前出の服部さんによる。アズキノメイガ(別名フキノメイガ)は年2世代を経過し、ジャガイモ・ゴボウ・フキなどの害虫として知られるが、 幼虫は冬期にイタドリの茎内から集めやすく、売品もその名称からイタドリ由来のものと思われる。

 なお、前掲の1835年(天保6年)の釣り餌の記録の中に「指鳥虫」の名があり、これに「いたどり虫」と脚注があるという。さらにこれを紹介した渋澤(注3)は、 「脚注のとおりならばイタドリクロハバチAmetastegia polygoni の幼虫であろう」と記しているが、その根拠やアズキノメイガとの関連などは不明である。

F-1 「いたどり虫」(アズキノメイガの幼虫)の売品 F-2 同、中の幼虫の拡大


トビモンシロヒメハマキ Ametastegia polygoni
[釣り餌名:よもぎ虫]

 これもガの一種で、キクやヨモギの茎にゴール(虫コブ)を形成してひそむ幼虫を、ウグイやオイカワなどの渓流魚用に使用する。釣り場でカズサヨモギの茎から現地調達のできる餌として古くから利用されている。

 釣りの本にはその正体をヨモギシロフシガ(本種の別名)としてある。また「売品もあり」というが、ぼくはまだ現物を入手していない。一方、これをやはりキク科植物の茎にゴールを形成するコクロヒメハナノミMordellistena insignata とする説もあり、 再調査を要する。


アワノメイガ Ostrinia furnacalis
[釣り餌名:もろこし虫、もろ虫] (写真G-1〜3)

 冬から春にかけての渓流魚用の餌として釣具店の餌カタログでまれにその名を見ることがあるが、1991年4月、東京の秋葉原の釣具店で実物を入手した。店員によると、トウモロコシの茎から集めた由である。 約10匹内外の終齢幼虫を新聞紙とともにプラスチック容器に入れ、価格は300円であった。メイガ類の幼虫は越冬世代以外は皮膚が軟弱で釣り餌には向かず、日もちの関係からも販売は冬期だけに限定される商虫であろう。

 なお、この仲間はかつて一種だったものが再検討され、現在では3種に分けられている。幼虫による区別は困難であるが、本種は「寄主がトウモロコシならば」との前提つきで、服部さんの同定による。

 それにしても、大害虫とはいえ、この虫を売るほど集める採集人の苦労はいかばかりであろうか。ただ、この仲間は研究者レベルでは安価な人工飼料が開発されている。将来は関係研究者の副業として考慮の余地が……たぶん、なかろう。

G-1 「もろこし虫」(アワノメイガ幼虫)
の売品の容器
G-2 同、中の幼虫 G-3 同。アワノメイガの成虫




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