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この幼虫の寄生を受けた枝はその部分が太くふくらみ、それより先の部分を枯死させるブドウ害虫としても知られるが、通常、防除の行き届いたブドウ園よりも野生のエビヅルのほうが寄生率が高く、
売品もほとんどがエビヅルで集められたものである。
採集はこうしたコブ状にふくらんだ枝をさがせばいいのだが、われわれがそれを集めても中の幼虫の有無や生死は枝を裂いてみなければわからないことが多い。しかし、 購入した枝から死んだ幼虫が見つかることはほとんどないことに驚く。採集人たちが今で言う「非破壊検査」をどうやって行っているかはナゾである。 成虫のガはハチにそっくりな形をしていて、「擬態」の例として有名である(写真B-3)。もちろん刺すことはできないが、それでもつかむと腹を曲げて刺すマネまでする。 なお、田中誠氏によれば、この幼虫は釣り餌のほかに江戸の武士階級に流行したウグイスやメジロなどの飼い鳥の餌として用いられ、徳川吉宗(1684−1751)のころから近在の農村は毎年、 将軍家から「エビヅルムシ」の上納を強制され、たいそう苦労したと伝えられる(注4)。 また、近年「養殖ぶどう虫」「バイオぶどう虫」などのまぎらわしい名の釣り餌が出回り、むしろこちらのほうが主流になっているが、これは別項の「養殖もの」で後述するように、 ハチミツガというまったく別のガの幼虫である。 イラガ Monema flavescens (写真C-1〜3)
マユ(繭)の中で越冬中のイラガの終齢幼虫を、タナゴ釣りの特効餌として販売。マユ10個で400円。タナゴ専用の餌としてすでに明治時代から用いられていたが、商品化は昭和初期のことらしい。
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ちなみに釣りの本による「玉虫」の使用方法は「毛抜きで危険な毒トゲを全部取り、頭をチョン切り、中のドロドロを小さく針にからめる」のだそうである。
イラガの幼虫は、カキの木やサクラの木などの庭木に多い有数の「刺す毛虫」で、うっかり刺毛に触れると電撃的な激痛が走る(写真C-3)。しかし、マユの中で越冬中の終齢幼虫は、体が白く縮み、 刺毛もフニャフニャになってもはや人を刺す実力はなくなる(写真C-2)。あちらの世界のイラガはこの越冬幼虫まで人を刺すらしい。 ボクトウガ Cossus jezoensis (写真D-1・2)
ネコヤナギの枝に潜入している幼虫を集め、主としてウグイやニジマスなどの渓流魚用に販売。幼虫10匹を木屑とともに容器に入れて300円。ボクトウガは各種の樹木の枝幹部を加害し、
幼虫期が2年間にわたるので周年的に採集が可能だが、"虫屋"ならばこの価格ではとても集めきれまい。
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