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ゴキブリの功罪

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 ゴキブリは塩以外の人間のたいてい食物は何でも食べ、食性は腐敗したものから人糞にまで及び、当然病原菌をまき散らします。実際にゴキブリからさまざまな重要な病原微生物が検出され、 ベルギーのある病院の小児科病棟ではゴキブリのサルモネラ菌による集団食中毒まで記録されています。

 加工食品からゴキブリの死体でも出てこようものなら、その企業の浮沈にかかわる大事件です。これが第一級の衛生害虫であることにだれも異論をはさみません。

 しかし、あえて反論を承知で言わせていただけば、ゴキブリは本当にそんなに悪者でしょうか?

 病原菌の運び屋といっても“洗わない手”だって似たものです。病原菌の“質”となれば、ハエやノミやカの方がはるかに大物です。しかも、 ゴキブリは本来清潔な昆虫で、皮膚からは殺菌作用のあるフェノールやクレゾールを分泌しているという最近の報告もあります。上記の食中毒の事例も、 それが稀なケースだったからこそ記録されたのでしょう。人間の食物をかすめるといっても、農業害虫に比べればタカが知れています。

 それにしてはゴキブリの嫌われ方はちょっと極端に過ぎないでしょうか。嫌いな虫のアンケートでも、ゴキブリは必ず第1位が“指定席”です。 結局、ゴキブリの最大の害は、その姿かたちが人間、とりわけ台所で遭遇のチャンスの多い主婦の感性に合わないというタワイナイことに過ぎません(と、 ボクは思います。

 ひるがえってゴキブリの功績を検証すると、これがなかなかのものです。

 ゴキブリは低コストで大量に増殖することができ、重要な実験動物として世界中の生物系の大学や研究機関で常時飼育されています。

 この虫ほど、切った張ったの大手術に耐えられる丈夫な虫はほかにあまりいません。ゴキブリのおかげで幾多の生理・生化学的な新事実が解明され、 生物学の発展に果たした役割には計り知れないものがあります。また、多くの殺虫剤もゴキブリの命と引き替えに開発されました

 食用・薬用としてのゴキブリも世界的に多彩な事例が報告されています。ものの本からそのいくつかを紹介しておきます。

 今世紀の初めころまで、イギリスの船員は船の中でゴキブリを捕らえて、重要なタンパク源として生で食べました。エビのような味がするといいます。 タイの少数民族では、子供たちがゴキブリをフライにして好んで食べます。日本でもある料理学校の校長の最近のスペシャル・メニューにゴキブリのフライを粉にして小麦粉と混ぜたスイトンがあります。 中国では古くからゴキブリが食用として利用されれきました。

 さらに薬用となると、その効用は万病に及んでいます。たとえば、ゴキブリを煎じて血管拡張や神経痛に(中国−図10)。 ゴキブリとナメクジとブタの胆汁を混ぜて梅毒に(中国)、ゴキブリを煎じた茶が破傷風に(アメリカ)、ゴキブリ酒が風邪に(ペルー)、黒焼きが寝小便、 すりつぶして霜焼け軟膏に(日本)用いられたなどなど、枚挙に暇がありません。

 しかも、その効用がただの迷信とは限りません。ヨーロッパでは昔、チャバネゴキブリで作った心臓薬が広く市販されていましたが、その有効成分には、 腎臓の上皮細胞を刺激して分泌機能を活性化させる作用があることが判明しています。
薬用のチュウゴク
ゴキブリ

(図10)

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