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ゴキブリと国民性

 前述のように、日本の屋内性ゴキブリのうち在来種はヤマトゴキブリだけで、この種類だけは現在でも屋内と野外の両方で見られます。 また文献記録から推定すると、侵入種のうちではチャバネゴキブリが江戸時代の比較的早くから定着を果たし、次いでクロゴキブリも侵入したようです。

 しかし、“木と紙でできている”と称された日本家屋の構造は、暖房の不備からその発生はたかが知れていたと思われます。 少なくとも家庭の主婦がこれほどゴキブリとのつき合いが深くなったのは戦後のことです。

 つまり、欧米に比べてゴキブリとの縁は浅いといえます。あまり見慣れない昆虫に加えて、身体が脂ぎって大きく、行動が素早く、台所にいつもいるとなると、 薄気味悪いと思っても無理はないかもしれません。おかげで、日本人のゴキブリ嫌いはちょっと極端で、つき合いの古い欧米とはおのずと対応が違っています。

 ゴキブリは必ずしも世界中で迫害されているわけではありません。イギリスでは地方によってはゴキブリを生命の保護者として尊敬し、 引っ越しのときには数匹のゴキブリもつれて行くといいます(小西正泰;1992) 。

オオゴキブリの一種
(図11)
 また、アメリカではマダガスカル産の巨大な野生種のオオゴキブリの仲間がペットとして人気があります。この仲間は手で捕まえるとキーキー悲しげに鳴きますが、 この鳴き声も楽しんでいるようです(図11)。

 巨大で、翅がなく腹がむき出しのこのゴキブリのペット化は日本ではとても考えられません。

 欧米人はホタルや鳴く虫にはまったく無関心ですが、ゴキブリなどへの嫌悪感も明らかに希薄なようです。もしかしたら、日本人の鳴く虫を愛する感性とゴキブリを嫌悪する感性は、 身近な生き物に無関心ではいられないという意味で同根なのかもしれません。

 それにしても日本人は、この生物界の大先輩にもう少し寛容になれないものでしょうか。一度でも、ゴキブリをびんにいれて、その姿形をつくづくと見て下さい。 そこに刻まれた悠久の進化を適応の明かしを見ることができるでしょう。

 事情を良くわかっていて、ゴキブリを見かけるとすぐスリッパに手を伸ばす僕自身の反省を込めて。

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