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第1回

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アクテオンゾウカブトムシ
『魔宮の伝説』に登場する南米産のアクテオンゾウカブトムシ、体長9〜12cm


ミツバチの巣から蜜を集める女性
ミツバチの巣から蜜を集める女性。スペインのアラーニャ洞窟の先史時代の絵

昆虫食が脳の発達をもたらした



 「インディ・ジョーンズー魔宮の伝説」という大ヒットした冒険映画に、巨大なカブトムシを皿に山盛りにして大勢でむさぼり食う ”おぞましい”シーンがあります。 この虫は南米産のアクテオンゾウカブトムシという、虫好きの間では有名な大型甲虫で、 現地では実際に好んで食用されています。映画の舞台となっているインドの宮殿に南米の虫がでてくるのもごあいきょうですが、 それが魔宮のゆえんなのでしょう。

 近年、昆虫に対する一般的な印象は、とくに先進国においてすこぶる悪く、ましてやこれを食べようなどという発想はどこを押しても出てきそうもありません。 開発が見慣れた昆虫たちを遠ざけ、なじみの虫はゴキブリばかりの現状では、それも仕方ないことかも知れません。 しかし、かつては虫は人類の身近な存在だったばかりか、サルの進化から見て、人類のはじまりは食虫動物だったと考えられます。

 その後、狩猟の時代を迎えても、いつも大型動物に恵まれていたわけではなく、虫は依然として重要なタンパク源でした。 それは人類の糞の化石(コプロライト)の分析からも明らかで、当時はおそらく、味のよしあしや毒の有無、 採集の難易度などによる経験的な「昆虫分類学」も発達していたに違いありません。

 また、スペインのアラーニャ洞窟には旧石器時代に描かれた「ミツバチの巣から蜜を集める女性」の絵が残されています。 蜂蜜とともにミツバチの幼虫やサナギも貴重な食物だったに違いありません。

 そんなヒトがなぜ虫を食べなくなったのでしょうか? 農耕や畜産の開始、漁労技術の進歩などによって、 虫が食料としての重要性を失ったことも理由のひとつでしょう。

 しかし、決して虫がまずいからではありません。その証拠に世界には食糧難のためではなく、 日常の食料として虫を好んで食べている国や地方がたくさんあります。また、フロリダ大学の人類学者マーヴィン・ハリス教授によれば、 人類が虫を捕まえて食べたことこそが、手の器用さ、手と足の分化、頭脳の進化をもたらし、ヒトを特殊な動物にした基盤となったとして、 欧米人の昆虫や他の小無脊椎動物に対する嫌悪感は「当然というより、むしろ異常なことだ」述べています。

 また、別項で述べますが昆虫は栄養的に肉に勝るとも劣りません。これから何回かにわたって現代の食虫習俗を紹介します。 虫嫌いな読者はまず、これを我慢して読むことから初めて下さい。あなたが来るべき21世紀の食糧難に生き残るためにも……。