第2回
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長野県で売られている昆虫の缶詰の例 |
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「ざざむしの缶詰」の中身のトビゲラ類の幼虫 (田中 誠氏提供) |
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現在世界中で食べられている昆虫は、メキシコの約300種類を筆頭に、
500種類以上はあると推定されています。
日本では、中世以前の実態は定かではありませんが、江戸時代以降になると多くの記録が残されています。
この時代に庶民がひんぱんに食べていた昆虫には、イナゴ、スズメバチ類の幼虫、タガメ、ゲンゴロウ(金蛾虫)、
ボクトウガやカミキリムシの幼虫(柳の虫)、ブドウスカシバの幼虫(えびづるの虫)などがあり、調理法も煮る、
焼く、漬ける、でんぶにする−などなどさまざまでした。
海で囲まれ、大型哺乳動物も、集めやすい群居性の昆虫も少ない日本は、食虫習俗の発達に関しては中レベルの国に属し、
その記録は多くはないものの少なくもありません。大正時代には農商務省の昆虫学者・三宅恒方によって、
はじめてアンケートによる食用・薬用昆虫の全国的な調査が行われています。
それによると昆虫食は、ハチ類14種をはじめ、ガ類11種、バッタ類10種など、合計55種に及び、
また地方別では内陸の長野県の17種を筆頭に、41都道府県に達しています。これらには、
せっぱつまった救荒食は含まれていないので、近代まで日本人は実にいろいろな虫を”いかもの食い”ではなく、
好んで食べていたことがわかります。
一般に食文化には保守的な面があります。昆虫食も親から子へ伝承され、地方色が強い一方、
新たな種類が追加される可能性もせばめています。ただ、食糧難となると食わず嫌いよりも空腹が優先し、話しは別になります。
第2次大戦中には小学校でイナゴ採りが推奨され、製糸工場では、糸を取ったあとのカイコのサナギを女子工員が食べてしまうので、
配給制にしたと伝えられます。
そして現在、この飽食の時代にも一部の食用昆虫はなお”商品”としての命脈を保っています。
写真は長野県の食品メーカーから現在も市販されている昆虫の例です。このうち「蜂の子」はクロスズメバチの幼虫やサナギ、
「まゆこ」はカイコガの水炊きです。
また、「ざざむし」は冬の天竜川の浅瀬(ざざ)で採集される水生昆虫の幼虫の大和煮で、
限られた量の天然ものなので大変高価です。その中身はかつてはカワゲラ類の幼虫が主体でしたが、
近年は水質などの環境変化でおもにトビケラ類の幼虫に変わってきています。
そのほか、信州酒場ではセミの幼虫の空揚げを出し、ローカルな食虫習俗は各地それぞれに残されていますが、
それは衰退の一途をたどり、また、日常の食品から特殊な嗜好品へと変わりつつあることは否めません。
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