ホーム > 読み物コーナー > 虫を食べるはなし > 第3回

第3回

各写真をクリックすると大きい画像が見られます
クロスズメバチの働きバチ
クロスズメバチの働きバチ
(写真提供=松浦 誠氏)


クロスズメバチの巣の掘り取り風景
クロスズメバチの土中の巣の掘り取り風景(長野県)
(写真提供=松浦 誠氏)


クロスズメバチの巣の販売風景
クロスズメバチの巣の販売風景(岐阜県串原村)
(写真提供=松浦 誠氏)


「蜂の子」の缶詰
「蜂の子」の缶詰。長野伊那・かねまん社製
(写真提供=松浦 誠氏)

愛されたふるさとの味「蜂の子」



 「蜂の子」は、日本の食用昆虫の中では「イナゴ」と並んでもっとも有名な存在です。 スズメバチ類の中でも小型のクロスズメバチの地下の巣を掘り出し、幼虫やサナギを集めたものがそれで、 地方によってジバチ、スガレ、ヘボなどとも呼ばれています。

 料理法は甘露煮やそれを炊き込んだ「蜂の子飯」、油いため、寿司や餅に混ぜるなどさまざまですが、 独特の風味があり、昭和天皇も好物であられたそうです。動物タンパクの乏しかった本州中部で古くから伝えられる郷土料理ですが、 現在ではひそかなファンが全国的な広がりを見せています。

 「蜂の子」は、「スガレ追い」と呼ばれる伝承的な採集技術があり、長野県などにはこれを無上の楽しみとしている人がたくさんいます。 やり方は、秋に野外で見つけた働きバチに、真綿で目印をつけた肉片を持たせ、後を追いかけて巣を捜し、 発煙筒でハチをマヒさせて一網打尽に巣を掘り取るのが一般的です。

 巣は十分に育つと巣盤が10段以上、幼虫やサナギの部屋が1万個にも達しますので、 若い巣を自分の庭に移して育つまで待つ「飼養」的なことも行われています。 全国的に出回っているのはもっぱら長野県で作られた缶詰ですが、最近では品不足で韓国から輸入までされているそうです。

 また、長野県などでは、シーズンになると幼虫やサナギの入った巣が露店やスーパーでそのまま売られています。 価格は採集人からの買い取りがキロ当たり5,000円、小売値がその倍くらいなので、ちょっとした牛肉並みです。

 商業的にはほとんど流通していませんが、オオスズメバチなどの大型種も全国的に趣味と実益を兼ねた狩りと食用の対象にされています。 愛知県のあるグループなどは、もう何十年も毎年50個以上の巣を採取し続け、近県まで遠征したり、 最近ではハチを追いかけるのにトランシーバーまで動員しているそうです。

 とにかく成虫も幼虫もクロスズメバチの十倍以上も大きく、1個の巣の重量も比較になりません。 その調理法も「蜂の子」よりさらに多彩で、まさに”やめられない”年中行事となっているようです。

 一方、スズメバチ類はアジアにおいて最大の危険動物で、日本でも毎年30人以上の人がこれで命を落としています。 しかし、アジアの各地では今もこのリスクをおかしてまでスズメバチ類が食べられ、場所によってはこの仲間の絶滅まで懸念されています。

 が、生鮮食品が全国に出回っている日本では、明らかにこの習俗は衰退の傾向にあり、 皮肉にもそれがスズメバチ類を絶滅から救う最大の要因になるかも知れません。