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第19回

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ジグモの巣
写真1/
漢方薬で売られているジグモの巣
(中国・峨眉山山麓の露店で撮影、2000年8月)


ゴライアストリクイグモ
写真2/
南米ギアナの先住民が好んで食べる世界最大のクモ「ゴライアストリクイグモ」体長約10cm、重量100g
(八幡明彦氏原図)


オオツチグモ
写真3/
カンボジアの露店で売られているオオツチグモ
(八幡明彦氏提供)

クモを食べる習俗



 クモ類は昆虫の親戚筋の動物で、世界から3万5000種、日本から1000種が記録されています。 一般には嫌われものの代表みたいな存在ですが、昆虫を主食とし、農作物の害虫の天敵として大きな働きをしています。 一方、クモやその糸を、食用や薬用にする習俗も世界的に数多く、食材としてもクモ類は人類にささやかな貢献をしています。

 まず、クモや網の民間薬としての利用は、網を丸めて飲めば喘息に効く(イギリス)、クモの体液を腫れ物に塗る (韓国)などの記録が新旧とり混ぜてたくさんあります。ぼくは昨年の夏、中国の峨眉山山麓に並ぶ薬草の露店で、 ジグモの地中の袋状の巣を大量に売っているのを見ました(写真1)。煎じて飲めば血糖値を下げ、糖尿病が治るそうですが、 これを含めてクモ類の薬効も科学的には不明のケースがほとんどです。

 ただ、クモ糸を止血に使う事例がローマ時代から数多く、シェークスピアの「真夏の夜の夢」にも「クモの糸君、 わたしが指を怪我(けが)したら遠慮なく世話になりますよ」というせりふがあるほどです。近年、 クモ糸に血液の凝固物質があることが判明していますので、これは「迷信」から「実証」に昇格させてもいいかもしれません。

 南米では超大型のゴライアストリクイグモ(写真2)が好んで食用にされ、食後には鋭いキバをはずしてようじ代わりに使うとか。 また、インドシナ半島でもやや小ぶりのトリクイグモが日常的に食べられ、その串焼きまで売られています(写真3)。 日本ではこの仲間に詳しい八幡明彦氏の私信によれば、飼育中に死んだ個体を試食したところ、 カニの匂いとカニ味噌に似た味がしておいしかったそうです。

 またマダガスカルでは大型のジョロウグモの腹を生で食べ、オーストラリアやアフリカなどにも、 大型のクモ類を美味なものとして食べる種族が多いと記録されています。

 クモが嫌われる理由のひとつにその毒性があります。たしかにごく少数ながら命にかかわる危険な種類もありますが、 少なくとも日本にはそんな毒グモは皆無です。前述のトリクイグモの仲間は俗にタランチュラと呼ばれ、猛毒と信じられていますが、 大きいだけで毒性は低く、野外で鳥やネズミを常食にしているというのもウソです。

 大々的なクモの食用化は大量増殖が困難なため期待できませんが、とりあえず一度、庭のジョロウグモあたりを試食して感想をお聞かせください。 ぼく自身はどうもクモだけは食べる気がしませんので……。