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オオオサゾウムシ の「虫車」 |
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「虫車」を売る 少年たちの露店 |
中国は四川省の峨眉山山麓で資源昆虫の調査をしたとき、案内の村長の孫娘が竹の小枝の先に大きなゾウムシを取りつけたもので遊んでいるのを見た。
虫の長い前脚の一方を折ってそこに竹の枝の先を深々と差し込んである。そのときは深く詮索しなかったが、後年、省都・成都市の街角で思いがけずその玩具に再会した。
十字に組み合わせた細竹のそれぞれの先端にゾウムシを取りつけ、虫が飛ぶとそれが推進力になってクルクル回る風車ならぬ虫車を持っている子供に出会ったのだ。
もう詮索せずにはいられない。それを買い与えたという姉から聞いた露店に直行した。売り手は小学生の男の子が3人、商品は籠に入れたオサゾウムシが10数匹、
4匹一組の虫車と1枝1匹のものとがあり、1匹30銭(日本円で約4円)。すべて買い取り子供たちのその日の商売は終わった。
この虫はあとで専門家の森本桂氏の同定でチュウゴクオオオサゾウムシ(中国名・長足大象虫)であることが判明したが、中国の虫仲間の話で、これは四川省を中心に周辺の広範な地域で昔からある遊びであること、虫は竹やぶから採集人が集めること、ほとんどの現地の人は子供のころこれで遊んだ経験を持つこと、数日遊んで飽きると火であぶっておやつに食べること、脚を含めてすこぶる美味で、遊びよりも食べることが魅力だったこと……などがわかった。虫はしっかりと竹に固定されて体が宙に浮きつかまるものがなく、飛ぶしかない。当然、虫車が回りやすくなるだろう。いつごろだれの創始になるものかは不明だったが、りっぱな伝統玩具だと思った。
大型のオサゾウムシ類の幼虫はアジアや南太平洋の島々から南米に至る各地で食用にされ、ぼくはその成虫料理も広州でを食べたことがある。それにしても遊びとおやつを兼ねたこの「一虫二石」は、日本の母親には残酷で気味が悪いと歓迎されないだろう。ぼくが子供のころ、トンボのシッポをちぎって麦わらを差し込んで飛ばす遊びが日本にもあった。あとで食べないだけむしろ残酷だったと思うのだが……。
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