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アカトンボの旅


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アキアカネ
 「赤とんぼ」は三木露風の同名の童謡とともに、日本人にとっては郷愁の虫である。しかし、分類学的には特定の種類を指すものではなく、 トンボ科アカトンボ亜科アカネ属に属する17種、またはほかの赤い色のトンボも含めた複数の種を俗に「赤とんぼ」と称し、その代表種が日本の秋を彩るアキアカネである。

 アキアカネは1年に1回発生して卵で冬を越し、平地の水田や湖沼で育った幼虫(ヤゴ)が梅雨季に成虫になる。このトンボは間もなく高い山の上に移動するので盛夏の平地からは姿を消すが、 夏山では驚くほどの大群に出会うことがある。そして、秋になると避暑生活を終わり、山から再び平地に産卵のために戻ってくる。ただこのころはまだほとんどが性的に未熟な黄色いトンボだが、 成熟するにつれて文字通り真っ赤な「赤とんぼ」に変身する。

 アキアカネのこうした移動習性はよく知られ、移動距離は100キロを越えることもあるという。しかし、実際には謎の多いトンボで、どうしてこのような大移動をするのか、 山から戻るのは自分が生まれ育った元の故郷かどうかもよく分かっていない。地上200メートルの高層ビルの上で一定方向に飛ぶ大群が新聞で報じられて話題になったが、 調べる手だてがなく話題だけで終わった。平地に戻ってから成熟して赤くなるという常識も、山ですでに赤くなっている個体もあり、高山の池で幼虫が育ったという記録もある。 雨後の水たまりに好んで産卵をするが、この無駄な行動の意味も定かではない。

 アキアカネの一生は冒険の連続である。そのため、ほかのトンボ類よりも産卵数が多いものの、生育の途中で死ぬリスクもまた大きく、それでいてトンボ界きっての隆盛を誇っている。 これもまた謎である。



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