韓国の養蚕業はここ数年で事実上壊滅したが、近年、そのカイコに思いがけない血糖値降下作用があることが水原の蚕糸昆虫研究所(旧・蚕糸試験場)のモルモット実験で発見され、
これがそもそもの発端である。
カイコの終齢3日目の幼虫をドライフリージングし、その粉末を糖尿病患者に毎食後スプーン1杯ずつ投与したところ、80%の患者に効果が見られ、その半数は血糖値が正常に戻ったという。 同じ終齢幼虫でも3日齢を超えると絹糸腺が発達して効きめが半減するとか。ただ現在、その有効物質を探索中で、まだこの“韓方薬?”は医薬登録はされていないらしい。 が、そこは口コミですっかり有名になり、急速に養蚕業が復活し、1995年から掃き立て量が6万箱(1箱2万粒)を超え、農家の直売で幼虫がマユの3〜4倍の高価で飛ぶように売れているそうである。 この薬効が事実なら、糖尿病患者にとってはまたとない福音となろう。昆虫産業の旗振りをしてきたぼくとしてもこれが見捨てておかりょうか! 早速サンプルを持ち帰り、糖尿病で悩んでいる友人に効果の人体実験をしてもらった。ところがたちまち激しい下痢に襲われ、残念ながら実験は3日間で中止された。 念のため、ある企業にサンプルの細菌検査を依頼したところ、大腸菌を含め、許容量の数十倍の細菌が検出された。ナマの昆虫粉末である以上、 管理が悪ければこういうことも起こり得ることで、友人には申し訳ないことをした。しかし、何と言っても韓国のれっきとした国立研究所のお墨付きの素材である。 ぼくはちょっと怖くて再実験する気になれないが、やがてカイコ由来の製剤が日本に大量輸出される日が来るかも知れない。それともこれに触発されて日本の養蚕業にも再び光明が――。
[研究ジャーナル,22巻・6号(1999)] |
もくじ 前 へ 次 へ