今春、日本でも公開され、驚異的な興行成績を挙げたディズニー映画『バグズライフ』(虫の生活)は、イソップ物語「アリとキリギリス」から発想された、
虫が主役の映画である。また、究極のCGアニメとのふれこみで、ぼくも久びさに映画館に出向き、子供たちに混ざって鑑賞させてもらった。
ストーリーは、「アリの王国が食糧を徴収にくるバッタ軍団のため、存亡の危機に立たされる。やっかい者のフリックという働きアリが用心棒さがしの名目で王国から追い出されるが、 彼は助っ人と勘違いしてサーカス団を連れ帰る。結局、再来したバッタ軍団はフリックの大活躍で放逐され、彼はヒーローとして王女のアッタ姫と結ばれる」と、他愛ない。 しかし、サーカス団のノミの団長、糞虫、ナナフシ、カマキリ、芋虫など個性的で多彩な虫たちが登場し、CG技術もすばらしく、親子連れの観客に大受けであった。 また、その前に『アンツ』(アリ)という映画も公開され、声にシルベスタ・スタローンや、シャロン・ストーンを起用するなどで話題を呼んだ。 ぼくはこれも沖縄行きの機内でたまたま観た。うわさでは『バグズライフ』のスタッフのひとりがケンカ別れして作ったというだけあって、虫のCG処理もストーリーも大同小異であった。 解説によると、アリの脚を4本にしたのは意図的なデザインらしいが、ともにこれほど徹底的に虫が擬人化され、習性が歪曲されると、ぼくとしては別の感情が入り混じる。 物知り顔で娯楽映画にケチをつけるほどヤボではないつもりだが、子供たちに間違った知識をインプットしてしまうことで、働きアリと王女の結婚だけは認知しかねる。 アリはコロニーにカーストを持つ社会性の昆虫として知られるが、それは1匹の女王から生まれた家族社会である。とくにコロニーを支える働きアリや兵隊アリは、 本来すべてメスで、女王のフェロモンの作用で卵巣の発育が抑えられ、“女を捨ててそのカーストを担っている。だから、働きアリがどんなに男性的にふるまっても、 王女との結婚は姉妹による同性・近親結婚になる。ぼくにも擬人法の適用を許してもらえれば、だれでも安心できるハッピーエンドは、実は次代のコロニーの滅亡を暗示している。 もっとも昆虫学者まで参加したスタッフが、こんなことを知らなかったはずがない。『バグズライフ』も『アンツ』も、きっといまはやりの「本当は恐ろしい童話」なのであろう。
[研究ジャーナル,22巻・7号(1999)]
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女王 | <アント・アイランド>の女王の座をそろそろ引退し、娘のアッタにゆずろうと考えている信望があつく気品高い女性。 |
アッタ姫 | <アント・アイランド>の王女。女王の地位をつぐため、的確な判断力や国を守るための任務をはたすよう努力しているが、自信不足なため判断力がにぶい。 |
ドット姫 | 早くに大人になって飛べるようになりたいと願っているアッタの妹。体は小さいけれど、だれにも負けない勇気とガッツを持ち、じゃま者扱いされがちなフリックに共感する。 |
フリック | アリの国<アント・アイランド>に住む創造力豊かで陽気な働きアリ。 奇抜なアイディアを考え、何でも作り出してしまう発明家だが、ドジでいつも空回りすることが多い。 |
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