イモムシからさなぎの時代を経て、華麗なチョウに変身する−いわゆる「変態」は、昆虫の持つ大きな特徴のひとつである。また、骨がなく、
皮膚が筋肉の支点になっている「外骨格」の昆虫は、幼虫が成長するにつれて皮を脱いで入れ物を大きく替える必要がある。
そして、このような昆虫の発育と変態がホルモンによって支配されていることは、すでに1920年代から分かっていた。 しかし、それらのホルモンの化学構造や作用の仕組みが明らかにされてきたのは近年になってからのことである。 昆虫の発育と変態に関与するホルモンには、脱皮を誘導する「脱皮ホルモン」と、変態を抑えて幼虫の形態を保持する「幼若ホルモン」、 および脳から分泌され、これらのホルモンの分泌を刺激する「脳ホルモン」がある。そして、これらの組み合わせによって、幼虫が大きくなるための脱皮か、 変態のための脱皮かが決まる。
現在、これらのホルモンの大部分は化学構造まで解明され、昆虫の「変態」という自然界の大ドラマも、人為的な操作によって、その筋書きを自由に書き換えることが可能になりつつある。 たとえば、カイコでは、それによって大きくした幼虫に鶏卵大のマユを作らせたり、逆に幼虫が小さいうちに極小のマユを作らせたりする技術が完成している。 もっとも、この操作では遺伝子までは変わらないので、その子供たちはまた普通のカイコに戻る。しかし、せちがらく実用的な展開ばかりを考えず、 子猫ほど大きいカブトムシを作る可能性が開けたと思うだけでも夢がある。 [北海道新聞夕刊「オーロラ」,(1990.2.3)] |
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