シーズンになると、ミツバチの巣の中には、体も眼も大きく、何も仕事をしないハチの姿がたくさん目立つようになる。これがオスで、
“交尾”を唯一の目的として存在している。
ミツバチの交尾の実態が明らかにされたのは近年のことである。それによると、まずオスバチたちは巣を出て、空中にたむろする。 そこに新たに育てられた新女王が、性フェロモンの匂(にお)いを振りまきながら近付くと、巣の中では決して性行動を起こさなかったオスバチたちが、 にわかに興奮する。そして、“娘一人に婿千人”の状態で、全力で逃げる女王を追いかける。ただのオスバチで終わるか、晴れて“王”になれるかの正念場である。 結局、体力にすぐれたオスが追いつき、たった数秒間の交尾を果たす。
新女王は生涯一度きりのこの結婚飛行で何回も交尾し、そのつど王たちの命が失われる。そして新女王は、このとき蓄えた精子を小出しにしながら産卵マシンと化し、 長ければ6−7年も生き続ける。 なおオスバチは、結婚シーズンになると、1つの巣の中に多いときには数千匹も現れるが、その大部分は結婚できない“あぶれオス”で終わる。 多少は長生きできる損得はともかく、シーズンが終わればもうただの“ゴクつぶし”でしかなく、働きバチによって巣から追い出される。 自分で餌(えさ)をとる能力を持たないオスバチは、こうしてむなしく巣の外に死体の山を築いてゆく。 ちなみに、新女王を産んだ旧女王は、あらかじめ約半分の働きバチを引き連れて古巣を去り、その座を新女王に明け渡す。 ミツバチはこうして、旧女王の方が分家するという方式によって女王の交代が行われるのである。 [北海道新聞夕刊「オーロラ」,(1990.2.17)] |
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