東京のさる骨董(とう)店で面白いものを見つけた。小さい筒型のヒョウタンの口を切って象牙の枠をはめ、精巧な透かし彫りの黒檀(たん)のフタをかぶせたもので、
16万円の値が付いていた。店主がぼくに「それが何だかわかるか」と聞いたので、「コオロギの容器だ」と答えると、「正解したのはあなたが初めてだ。
曲げてあなたに買ってほしい」という。結局、それしか持ち合わせのなかった1万円でぼくは思わぬ珍品を入手した。
闘コオロギの容器のふたの彫刻
(中国清時代)
闘いは、2匹のコオロギを大鉢の“競技場”に入れて行われる。棒につけたネズミのヒゲでコオロギを刺激して怒らせると、口で咬(か)み合うケンカになり、 逃げたり飛び出したりした方が負けになる。重量制の採用など、複雑なルールも定められ、子供までそれなりの金を賭(か)けて熱中したという。 当然、関連の道具類も華麗に進化し、高級なものはまさに芸術品の域に達している。前述の容器もその一つで、同類は映画「ラストエンペラー」にも登場している。
[北海道新聞夕刊「オーロラ」,(1990.3.24)] |
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