やれ打つな――と、手や足をすっていたイエバエや、毒々しいキンバエが、都会地ではあまり見られなくなってきた。発生源であった生ゴミ回収の徹底が功を奏したものである。
また、青黒いオオクロバエや背に黒縞(しま)のあるニクバエなどの大型のハエも、やはり発生源であった便所の水洗化によって都会地で急減している。
酒席で杯の中へハエがころがり出る“大事件”もなくなったのは、まずはけっこうなことである。
しかし、それに代わって最近都心部で、ホホアカクロバエという新顔の発生が目立ち始めている。このハエはシベリアなどの寒冷地に住む“北のハエ”であったが、 1975年に東京に初めて姿を現した。幼虫のウジは動物の死体で育ち、おそらく隠れた場所でのネズミの死体がその発生源と思われるが、現在では東京でもっとも目立つクロバエとなっている。 そして、このハエと在来のオオクロバエとどちらが多いかが、都市化のバロメーターにすらなっている。 ほかにも、東京では南方系のトウキョウキンバエが新登場するなど、都市化は昔ながらのなじみの虫を締め出す一方で、温度適応の範囲が広く、少量のエサで育ち、 かつ乾燥にも強い外来者に、新たな生活の場を提供しているのである。 |
[朝日新聞夕刊「変わる虫たち」,(1989.2.25)]
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