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イエバエの性異常

 動物の性は一対の染色体で決められる。多くのグループのメスは、細胞の中にXと呼ばれる性染色体を2個持ち、オスはそのうちの1個がYの組み合わせになっている。 つまり、XXがメスで、XYがオスである。そしてオスの精子にはXかYか、どちらかの染色体が1つ含まれ、そのどちらが卵子と結合するかで生まれてくる子供の性別がきまる仕組みになっている。

イエバエの卵
(全農教原図)
 ところが最近、イエバエの“性”に、全国的な規模で大異変が起こり、注目されている。つまり、Yが持っていた“オスをきめるM因子”が、本来その機能を持たない他の染色体に移ってしまい、 オスのくせにXXの染色体を持つ個体が増えているのだ。この異常は30年ほど前から徐々に増え、現在ではそれが大半を占めているという。

 通常では、このような個体群は死滅を免れないのだが、一方のメスの方にもこれを救う“F因子”を持つ異常個体が増え、これがM因子より上位に働いているため死滅を免れ、 性比も一対一に保たれているそうである。

 現在のところ、イエバエのこのような性異常は、日本だけで特異的に起こっている。その原因は定かではないが、異常は都市部で出現率が高く、少なくとも、 都市化という“文明”が何らかの形で深く関与していることだけは確かなようである。

[朝日新聞夕刊「変わる虫たち」,(1989.2.27)]



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