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冬の力

 「冬にカにさされた」という事例が増えはじめたのは1960年代前半ころからである。そして、62年に、アカイエカの一亜種として、この冬のカに“チカイエカ”という名がつけられた。

チカイエカ
(全農教原図)
 チカイエカは、素人目にはアカイエカと区別できないが、その性質にはほかのイエカ類には見られない特徴がある。まず、メスは吸血せずに最初の産卵ができる。 低温に強く、秋になっても休眠しない。もちろん暖房があればますます機嫌がいい。そのボウフラは野外のたまり水などではめったに見られない。ビルの地下のたまり水、 便所の浄化槽、地下鉄の側溝などがおもな発生場所である。

 つまり、古井戸の中などで細ぼそと暮らしていたこのカに、絶好の繁殖の場を提供したのは、ほかならぬ“都市化”である。通常このような場所は殺虫剤を処理しないので、 ますます増えたが、逆に殺虫剤に弱いのが弱みでもあった。しかしそれも、その後、屋内での衛生用殺虫剤の多用により、とくに有機リン系殺虫剤にきわめて強い耐性を示すに至っていることが昨年発表されている。

 さいわい、今のところこのカが媒介するヒトの伝染病は知られていない。しかし、犬のフィラリアの媒介者であることはわかっている。 愛犬に関する限り、冬でも安心はできない。

[朝日新聞夕刊「変わる虫たち」,(1989.3.4)]



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