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都市の介殻虫

 都市化によって在来の昆虫が姿を消して行く中で、一部のカイガラムシの仲間は例外的な存在である。

ツノロウムシ

いろいろな樹木を加害し、とくに都市の公園や街路樹など人工的な環境に多いカイガラムシで、都市化の指標に利用されている。
 カイガラムシの仲間は、ロウ物質を分泌してからだをガードし、長い口針を刺して植物汁液を吸って生活する。このような生活様式は概して殺虫剤がききにくく、 また、環境変化の影響も受けにくい。エサの植物さえ保証されれば、劣化した都市環境の中でも生き残れるであろうことは容易に想像がつく。 事実、都市化の進む中で“都市型”といわれる一部のカイガラムシは、むしろ増え続けている。そして、その理由としては、前述の生活様式の特性のほかにもいくつかの指摘ができる。

 まず、都市化による生物相の単純化と大気汚染は、カイガラムシの本来の天敵相に打撃を与え、その分、カイガラムシの増殖率が高まった。 また、都会で使われている街路樹や植え込み植物は、人工環境への耐性が吟味されているものの、水分バランスひとつとっても、その衰弱化は避けられない。 そのため、エサとなるこれらの植物が本来持っていた害虫への防御機能が著しく低下し、カイガラムシの定着と繁殖に好ましい条件をもたらした。  ただ、こうしたカイガラムシも、都市化の生物的な環境変化を知るための絶好の生物指標となる点では、役立っているといえないこともない。

[朝日新聞夕刊「変わる虫たち」,(1989.3.6)]


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