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ハチ害

 最近、ハチに刺される事故が急増している。厚生省のここ8年間の集計によると、国内のハチによる死亡者は320人に達し、毒蛇の118人を抜いて有毒動物害のトップにランクされている。

 被害は農村よりも都市部に多く、加害者は主としてキイロスズメバチという、日本最大の巣を作る種類である。専門家である三重大学の松浦誠氏が、ハチ害急増の理由を次のように分析している。

 まず、キイロスズメバチの主たる生活圏であった都市近郊の丘陵地帯が、急ピッチで開発されたことで、ハチがしばしば新興住宅の軒先に巣を作るようになり、必然的にヒトとの摩擦が増大した。

キイロスズメバチの働きバチ キイロスズメバチの巣
松浦 誠 氏 撮影

 スズメバチは巣にいたずらしなければ、めったに人を襲わない。事実農村では、ハチの巣を大切にして、“平和共存”している所も多い。しかし、ハチとの付き合いのなかった都会人の場合は、まるで意識も対応も違っていよう。

 そのほか、キイロスズメバチの最大の天敵であったオオスズメバチが、地下に巣を作る習性ゆえに、都会地から姿を消したことやジュースの空き缶の投げ捨てなどによるエサの提供も、キイロスズメバチの増加の一翼をになっているという。

 被害者は本当にお気の毒ながら、ハチの性質が変わったわけではない。変わったのはヒトの生活と意識の方なのである。

[朝日新聞夕刊「変わる虫たち」,(1989.3.28)]



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