童謡でおなじみのモンシロチョウは、幼虫がアブラナ科野菜の大害虫であることを含めて、日本でもっとも知られたチョウである。またここ100年ほどの間に世界中に広がり、
キャベツ畑を足場に増え、今や世界一の分布域と個体数を誇るチョウともなっている。
しかし、昆虫学者の故日浦勇氏の綿密な考察によれば、日本産のモンシロチョウは在来種ではなく、古い時代の近隣の地域からの渡来者であるという。
この二つのチョウの幼虫は同じ植物で育つが、成虫の習性が違い、モンシロチョウが明るい場所で活動してキャベツの害虫になっているのに対し、 スジグロシロチョウは日かげで活動するため、ワサビの害虫になっているものの、キャベツ畑では見られない。 では都会で起こったこの両者の置き換わりの理由は何であろうか。キャベツ畑がなくなったことを原因とする説もあるが、こうした都会にも、 アブラナ科の雑草はいくらでもある。どうやら、ビルの乱立による都会の“日かげ化”がこの逆転劇の陰の主役らしい。 [朝日新聞夕刊「変わる虫たち」,(1989.4.1)] |
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