ホーム > 読み物コーナー > 虫の雑学 > 黄・白のマユ

黄・白のマユ

 霞が関にある農水省の、外部PRを目的とした「消費者の部屋」で、1987年夏、「農業と昆虫展」が開催され、連日、親子連れの客でにぎわった。 このとき、子供たちにみやげとして、“人工飼料つきカイコ三匹”と“黄・白のマユ”が配布されたが、すでに都会の母子にカイコはなじみがなく、 「ママ、ケムシ!」「まあ気味悪い」という不心得な客も多かった。

黄(メス)・白(オス)のマユ
 さて、このときのマユは、黄色がメス、白色がオスのもので、蚕糸試験場(現在の蚕糸・昆虫農業技術研究所)によって開発されたものである。 通常、養蚕は2つの品種をかけ合わせた一代雑種を用いて行われるが、そのためにはサナギのときに両親の雌雄を仕分ける必要がある。雌雄でマユの色が違えば、 その作業が大幅に省力化される。また絹糸は、オスの方がより均一かつ上質であるが、黄・白のマユは、その選別をも容易に可能にする。

 カイコにはもともと黄色いマユを作る品種がある。メスの性染色体XYのうち、メスの性を決定するY染色体の方にだけ、マユを黄色くする遺伝子を放射線操作によって結合させ、 この画期的な黄・白マユの作出に成功したものである。

 この一連の研究で8千匹のメスがスクリーニングされたが、その結果、目的どおりに改変でき、その後の増殖を担ったのは1匹だけであった。

[朝日新聞夕刊「変わる虫たち」,(1989.4.12)]



もくじ  前 へ  次 へ