カイコは6千年の昔、中国でクワコというガの幼虫から作られた史上最大の“改造昆虫”である。日本でも養蚕の歴史はすでに2千年をかぞえ、
その技術も大きな“進化”を遂げてきたが、クワの生葉で育てるという基本パターンは全く変わることがなかった。
一方、農水省の蚕糸・昆虫農業技術研究所の保存する、膨大なカイコの品種の中に、マユが小さく実用性は乏しいものの、一時的にはリンゴやキャベツからカステラまで“何でも食う”系統がある。 そして、その遺伝子を実用的なカイコの品種に導入することに成功した。もっとも、これらのエサは栄養的には不満足で、“生ゴミだけで育つカイコ”というわけにはいかないが、 人工飼料ならば栄養面はどうにでもなる。 かくして、絹の再評価が高まる風潮の中で、“何でも食うカイコ”と“低コスト飼料”の歩み寄りによる矛盾の解決に、大きな期待が寄せられている。 [朝日新聞夕刊「変わる虫たち」,(1989.4.11)] |
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