晩秋になるとカメムシが越冬のためによく家の中に入ってくる。とくに山間部などでは大挙して押し寄せたカメムシのため、
生活が不能になるほどの“事故”がしばしば発生する。協会のホームページへの質問−「カメムシを潰してしまい、いくら手を洗っても悪臭が消えず、
たまらなく不快。消臭法を教えて!」。ぼくの無責任な回答−「消臭法は知らない。ほっておいてもやがて消える。これを良い匂いという人もいる。
あまり神経質にならないことが肝要」。
カメムシ類の悪臭は分泌腺で生産され、成虫では後脚の付根、幼虫では背面の開口部から放出される。分泌物は複雑な物質で構成され、種類によっても異なるが、 悪臭の本体は不飽和のアルデヒド類である。 カメムシはなぜ臭いのか? カメムシをアリなどと密閉容器に入れて分泌物を放出させるとアリは死に、ときには自分自身まで死んでしまう。 屁を含めて自分のにおいで死に至る動物はほかにあまりない。また、カメムシをピンセットでつつくと、正確にその方向に分泌物を発射する。これらのことから、 悪臭は天敵への防御物質として発達したというのがマットウな推定であろう。が、有力な天敵の鳥に対してはこの伝家の宝刀も効果がなく、 悪臭を振り撒きながらあえなく食われてしまう。 カメムシ類の幼虫は孵化後しばらく集団で生活するが、このとき1匹がにおいを放出すると、ほかの個体がパッと分散する。また、においの付いた手を別のカメムシに近づけるとポロッと落下する。 分泌物には仲間に危険を知らせる“警報フェロモン”の機能もあるらしい。さらには、これを性フェロモンとして使っている可能性も示唆されている。いずれにしても、 カメムシにとって悪臭を含むこの分泌物は、生存上の不可欠な物質であることは確かである。 カメムシのにおいは薄めれば香水の材料にもなる。前述のようにこれを“匂い”と感じる人もいる。ぼくのある女性の友人などは、カメムシを見つけると、 材料が枯渇してにおいが出なくなるまでヘアピンでつつきまくり、香りを楽しんでいる。かく申すぼくは、山で桑の実と一緒にカメムシを噛み潰した幼児体験から、 このにおいが大嫌いである。どなたか消臭法をご存じの方が居られたら教えて! [研究ジャーナル,23巻・2号(2000)] |
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