コエンドロは地中海沿岸原産の1年または2年草で、ヨーロッパにおいてはとくにソースの香料として多用されてきた。古代エジプトやギリシャ時代から薬用や食用に供され、 やがて中国に渡り、ここでも「世を益する蔬菜で、生でも煮ても食べられ、根と葉は健胃に、子実は止血と鎮静に効果がある」と珍重された。 日本へも10世紀以前に渡米したが、普及はイマイチだったと伝えられる。 現地滞在が長い日本人の中には「料理にパクチーが入っていないと食べた気がしない」という域に達している人も多いし、当協会のK顧問のように常時自宅で栽培までしているファンもいる。 また最近は、こうした顧客や来日外国人のためにスーパーなどでも売られている。しかし、これが好きな日本人はまだまだ少数派であろう。結局、 ニオイが「臭い」なのか「匂い」なのかの判断は、外国人(または関西人)と納豆との関係に見られるように、嗜好の個人差よりも、幼児期からの食習慣の差の方がより大きく影響していると思われる。 ぼくは先年『野外の毒虫と不快な虫』という本を編纂し、その中で不快として「カメムシ」に1章を割いた。しかし、これをコエンドロの常食国で出版したならこの章は不要だったであろう。 日本でも食の多様化とエスニック料理のブームが、コエンドロの市民権を定着させ、この本から「カメムシ」を削除する日が来るかも知れない。 その時まで本が命永らえて版を重ねればの話ではあるが……。 [研究ジャーナル,23巻・2号(2000)] |
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