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蟻地獄(左)とその巣(右)
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おなじみの「蟻地獄」はウスバカゲロウ類の幼虫が地面に掘ったりスリ鉢状の巣穴またはその幼虫の総称で,英名でも「ant lion(アリのライオン)」と呼ばれている。
縁の下などで普通に見られる蟻地獄は主としてウスバカゲロウという種類で,名の由来は「薄馬鹿−下郎」ではなく,成虫の透明な翅による「薄羽−蜉蝣(カゲロウ)」である。
蟻地獄は巣穴の底で大きなキバを開いて獲物が落ちるのを辛抱強く待つ。擬似巣穴のトラップでの調査によると,獲物のメニューは意外に豊富で,
アリのほか動作の鈍いダンゴムシなども多い。落ちた獲物は巣穴の壁と,幼虫が跳ね上げる土砂で脱出を阻まれ,結局は底に転落してあえなく餌食になるが,
大きなアリなどでは脱出に成功することも多い。餌にありつけるかどうかは相手次第のこうしたタナボタ式の採餌戦略では獲物の確保が不安定で,
ある実験では実に3カ月もの絶食に耐えたという。
蟻地獄は人間生活とは縁が薄いながら観察すれば実におもしろい。日頃対応に苦慮する孫などに対するおじいちゃんの点数稼ぎの絶好の素材でもある。
蟻地獄の彩集はふるい分けが主流だが,ぼくは巣穴に息を吹きつけて土砂を飛ばす古典的で確実な方法を採用している。顔が汚れるくらいは孫のために我慢する。
捕まえた蟻地獄をまず平面に置いてつつくと,行動上の適応で後退はするが前進できない。次に土砂を入れた箱に放せば翌日には巣穴が完成し,
こらえ性があれば巣穴の巧みな制作過程を観察できる。次いでアリやダンゴムシを入れて捕食行動を見る。餌は数日に1回ていどでよいが,やり忘れてもめったには死なない。
生育期間は2〜3年にも及ぶが,大きい蟻地獄を選んで飼えば,何匹かは土中に球形のマユを作って蛹になり,用済みの巣穴は崩れる。そして,夏にはトンボにヒゲをつけたような大変身した成虫が羽化してくる。
箱にまとめて放して分散を見る,箱を仕切って粒子の大きさの違う土砂を入れる(粒子が細かいと体長の割りに小さい巣穴を作り,荒いと大きな巣穴を作る),
巣穴に水滴を落とす,小石を入れる,アリに糸をつけて蟻地獄を釣る……などなど,孫が飽きなければ(たいていは飽きるが),あとはおじいちゃんのアイディア次第である。
「なぜか?」と考えさせられることも多く,ボケの防止にも役立つ。
[研究ジャーナル,28巻・4号(2005)]
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