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第7回

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セスジツチバッタの唐揚
セスジツチバッタの唐揚を売る露店.
バンコク市内


店頭のタイワンタガメ
店頭のタイワンタガメ.
バンコク、サンデーマーケット


タガメの魚醤
タガメの魚醤

タガメ食文化圏
--- タイの”全国区”タガメとバッタ



 食虫トライアングルの数ある食用昆虫のうちでも、範囲の広さと普遍性で特筆されるのがタイワンタガメとセスジツチバッタです。

 タイは内陸の広い国土と細いマレー半島の北半分で構成されていますが、この国に長く滞在した友人の桑原雅彦さんによると、 食用昆虫が販売されていたのはすべて内陸部で、魚の豊富な半島部ではまったく見れなかったそうです。 どうやら食虫トライアングルの南限は半島部に至っていないようです。

 内陸部でも南下するほど食虫のメニューは貧弱になり、バンコクでは「北部の連中は虫を食う」と軽蔑した言葉も聞きました。 ところがそのバンコクでも、タガメとバッタは例外です。

 セスジツチバッタは本来、トウモロコシやサトウキビなどの害虫で、発生期は7〜11月の長期にわたります。 そしてこの間、バンコクの盛り場の屋台では、秘伝のタレを付けた空揚げが売られ、街の風物詩にもなっています。 大変美味で、急速に消滅しつつある都会地の食虫習俗の中で根強く生き残っている理由が食べればわかります。

 前記の桑原さんの話では、数年前にインドシナ半島一帯でこのバッタが大発生して農作物が大害を受け、 タイ当局が農薬の航空散布を計画したが、農民の猛反対で中止されたとか。 当時コーンは1キロ8円、バッタは200円だったそうで、コーンよりもバッタを大切にする農民の選択は当然でしょう。

 一方、タガメはタイを中心にインドシナ半島から中国南部にかけて、伝統的に用いられてきた食材です。 この仲間は他の地域での食用例は少なく、これを”タガメ食文化圏”と称する人もいるくらいです。

 タガメは肉食の水生昆虫で、養魚場の大害虫です。日本では棲息環境の変化で激減し、今やペット店で売られる珍しい虫になっています。 これに対して、タイで食用に売られている数はハンパではありません。

 この虫は成分が灯火に飛来する性質があり、これを利用して集めるほか、ため池にネットをかけて魚を与えて積極的な養殖も行われているようで、 ここではタガメもまた昔から益虫でした。

 タガメがこれほど珍重されるのは、雄の成虫がよい香りを分泌するからです。そのため、 雄が一匹約80円もするのに雌は香りが薄く約5分の1の値段です。

 高価ですので買う人はひとつひとつ匂いを吟味して実に慎重です。食べ方は蒸したり煮たりするほか、 刻んでスパイスとしても多用されて、タガメを漬けた魚醤も人気があります。