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第8回

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スズメバチの巣盤
スズメバチの巣盤を売る店
(雲南省元江市内)


タケツトガの幼虫
竹に寄生したタケツトガの幼虫


竹虫料理
竹虫料理
(雲南省西双版納)


ヤゴの串揚げ
ヤンマのヤゴの串揚げを売っている露店。
1串8匹で2元=約30円
(雲南省麗江)


レストラン料理のヤゴ
レストラン料理のヤンマのヤゴ

雲南省の少数民族は虫が大好き



 食虫トライアングル(第6回参照)の一角に位置する中国の雲南省は、人口の大半を占める少数民族を中心に食虫習俗が極度に発達しています。

 記録によると、ここの食用昆虫は200種にも及び、うち約30種が「商品」として売られているといいます。 中でもスズメバチ(胡蜂)類とタケツトガの幼虫(竹虫)はもっとも普遍的なその代表種といえます。

 スズメバチ類は雲南省に多種類が分布し、ここがこの仲間の発祥地と目されています。 夏から秋のシーズンには巣盤がマーケットで盛大に売られ、その料理も昆明の大レストランから、 寒村の小食堂まで普通に見られます。ただし、価格は豚肉の十倍もして、現地では食べたいけれど気安くは買えない高級食品です。

 各地ではぼくが試食したのは大小合わせて5種類ほどの幼虫と蛹の油いためや空揚げで、 大変美味でした。ぼくにはどんな種類でも、幼虫でも蛹でも味は同じでしたが、同席の現地の人は「幼虫がうまい」 「いや蛹の方がうまい」といつも論議が活発です。

 スズメバチ類はアジアを分布圏とするグループで、食べるものもアジア周辺に限られています。ただし、 日本でも有害動物による死亡例はスズメバチ類がハブを抜いて断然の1位ですが、雲南省ではどれほどの採集人が刺されて落命していることでしょうか。

 ハチはまず頭や目など黒い場所を襲いますが、この習性はクマなどの捕食者に対する適応と考えられていました。 しかし、専門家の松浦誠さんはがこの地でのスズメバチのあまりの大量消費に、その攻撃性の発達には、 黒い瞳と頭髪を持つアジア人にも関与しているという新説を提唱しています。 なお、スズメバチ類は狭い台湾でも盛んに食べられ、今やその絶滅まで憂慮される事態になっているそうです。

 一方、竹虫ことタケツトガの幼虫は、これまた食虫トライアングル一帯ではもっとも珍重される食材で、 雲南省でもスズメバチ類に並ぶ目玉商品になっています。

 幼虫の寄生を受けた竹はその部分から曲がり、それが採集の目印になり、切り取った竹筒、 またはそれから取り出して皿盛りした幼虫が高価に販売されています。レストラン料理では油で揚げて薄く塩味をつけてあり、 形さえ気にしなければ有数のおいしい虫といえます。

 雲南省の食虫習俗は奧が深く、行くたびに新発見があります。たとえば昨年チベットに近い秘境「麗江」を訪れたとき、 大型のトンボのヤゴの油揚げを露店で盛大に売っていて驚きました。水田から小さいヤゴを集めて飼養までしているそうです。