第9回
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日本のイナゴの佃煮を食べるデフォリアート教授 (1991年夏、ウィスコンシン大学で写す) |
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虫アメ
(アメリカ、ホットリックス社発売) |
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虫入りのテキーラと中のイモムシ
(ボクトウガの一種の幼虫) |
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フロリダ大学の人類学者マーヴィン・ハリスは、食料としての昆虫をコスト(原価)とベネフィット(利益)の関係から論じ、
「群居性の昆虫が少なく、大型脊椎動物が多い欧米は、もっとも虫を食べない環境である」としています。
しかし、アメリカの先住民族のネイティブアメリカン(インディアン)は、松に付くパンドラガという大きなイモムシを好んで食べていましたし、
隣のメキシコは、古来からの習俗が今に残る世界有数の食虫王国です。
ウィスコンシン大学のデフォリアート教授は、数少ない昆虫食の研究者で、
個人的に食虫専門のニューズレターを世界に発信し続けています。ぼくも10年ほど前、イナゴの佃煮をお土産に教授の研究室を訪問し、
その熱い思いをうかがったことがあります。
教授は「アメリカでも日本でもこの問題が国のレベルで取り上げられる機運は熟していない。
食虫が民俗学的な興味で扱われているうちはダメだが、遠くない将来、世界的なタンパク源の不足が食用としての昆虫の価値を浮上させるだろう」
と期待していました。
そのとき教授から「テキーラ風味と称するシュガーカットの虫入りのアメをいただきました。
中にはペットの餌として有名なミールワーム(コメノゴミムシダマシの幼虫)が1匹ずつ入れてあり、
1本2ドルもしますが、ダイエット志向の女性によく売れるヒット商品になっているとか。
これは間もなく日本でも輸入されて盛んに売られ、話題になりましたので、ご記憶の向きがあるかもしれません。
一方、メキシコにはリュウゼツランから作られるテキーラという強い酒があり、その一部の銘柄にイモムシが1匹入れてあるものがあります。
この虫は同じくリュウゼツランを食べるボクトウガの1種の幼虫で、酒で脱色されて白くなっていますが、
本来は紫紅色のイモムシです。
ぼくは長らくその意味を知りませんでしたが、デフォリアート教授の説明で、幼虫が腐らないことで酒のアルコール濃度(約40度)
を証明するためであることを知りました。だから”デキーラ風味”の虫アメにも本物をまねて虫を入れたのでしょう。
そのほか、アメリカでは17年に1度大発生するジュウシチネンゼミの発生年には、このセミの料理法が新聞で紹介されたり、
ぼくたちが訪れたサンフランシスコ動物園の昆虫園では、昆虫アレルギーの緩和を目的に、年に1度、
来園者にコオロギやミールワームの空揚げを食べさせたり、イナゴを食べる日本人を野蛮とするアメリカでも、
食虫のひそかな芽は育っているようです。
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