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第10回

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チプミ
アフリカのベンバ族の大好きなチプミ(ヤママユガの一種の幼虫)


パプア・ニューギニアの少年
コウモリガの幼虫を食べるパプア・ニューギニアの少年
(三橋淳氏撮影)

所変われば……昆虫食のお国がら



 ほとんどの昆虫類は、種類によって分布範囲が違っています。将来、特定の昆虫が世界的な規模で食用として商品化されれば別ですが、 現状では、食用昆虫にはかなり地域の限定された”お国がら”があります。

 弘前大学の文化人類学者・杉山祐子さんは、アフリカのザンビアで有数の「虫好き」として知られるベンバ族について研究を進めています。 この種族は副食として多彩な昆虫を食べ、中でもチプミと呼ばれるヤママユガの一種の大型イモムシは、 「一生涯おかずが一種類しか食べられないなら、チプミを選ぶ」というほどの大好物だそうです。

 10月中旬から11月初旬のこのイモムシの発生期には、農閑期とも重なり、村中が森に移住して総出でチプミ集めに没頭するといいます。 発生地には現金や物々交換でこれを買い取る仲買人も集まって盛況をきわめ、自分で食べたいし、 金や物も欲しいというジレンマに悩むとか。採取したチプミは内蔵を絞り出し、油や野菜で調理したり、乾燥させて貯蔵したりするそうです。

 写真上は、先年、杉山さんに筑波で講演していただいたおり、試食用の回覧されたそのチプミです。 さすがに昆虫学者の集まりで、サンプルはすぐになくなりましたが、おいしかったという感想もありませんでした。

 東京農業大学の昆虫学者・三橋淳氏は、パプアニューギニアで昆虫食の調査を行い、多くの事例を報告しています。 とくに現地でサクサク・ビナタン(サゴヤシの虫)と呼ばれているヤシオオゾウムシの幼虫は大好物で、 戦争中には飢餓の日本兵もこれに習って争って食べたといいます。また、パンノキの材部に寄生するコウモリガの幼虫も大好きで、 せっかく採集したイモムシを案内の少年に生のまま食べられてしまったそうです(写真)。

 昆虫の中には毒のあるものもあり、全体から見ると食用にされている種類はごく一部に過ぎませんが、 これまで紹介のもののほか、記録によるとどうかと思われる昆虫食も少なくありません。

 ……大航海時代にはイギリスの船員がゴキブリを見つけると、スープまたは生のままで食べた。 アフリカには肉を土中に埋め、発生したハエのウジを集めて食べる地方がある。 ヨーロッパではチーズに発生するチーズバエのウジを「ただのチーズ」としてこだわりなく食べる。 メキシコでは食用としてシラミが売られていたことがある。エスキモーはノミを美味として賞味する。 メキシコのインディアンは臭いカメムシを生きたまま食べる……などなど、事例は尽きませんが、 この小稿の意図が逆効果になることを恐れてこの辺りでやめます。