第11回
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村長さんとオサゾウムシで遊ぶ孫娘 (1995年8月、峨眉山麓) |
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オサゾウムシの「虫車」
(2000年8月、征都市内) |
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オサゾウムシを売る子供たちと竹へのとりつけ方(右隅) |
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1995年の秋、仕事で中国・四川省の峨眉山麓を歩いたとき、案内役の村長さんの孫娘が不思議なものを持っていました。
竹の小枝の先に大きなゾウムシの成虫を2匹取りつけたもので、良く見るとゾウムシの長い前脚の一方を折って、
そこに竹の枝の先を深々と差し込んでありました(写真1)。村長さんがおもちゃに与えたとのことで、深く詮索しないまま、
すっかり忘れていました。
2000年の夏、ぼくは思いがけずその”おもちゃ”に再会しました。同じ四川省の成都市の街角で、竹を十字に組み合わせ、
それぞれの先端に同方向に向けてゾウムシを取りつけたものを持っている子供に出会ったのです。
それはゾウムシが一匹でも飛ぶと、それが推進力になってクルクル回る、風車にならぬ虫車でした(写真2)。
もう捨てておけません。子供の姉さんが「すぐそこで買った」という露店に直行しました。
売り手は小学生の男の子が3人、商品は籠に入れたくだんのゾウムシが10匹ほど、4匹の虫車と1枝1匹のものとがあり、
1匹30銭(日本円約4円)(写真3)。すべて買い取り、子供たちのその日の商売は終わりました。
中国の虫仲間を通じて、これは四川省全域と、雲南省の東北部および貴州省の一部を含む日本のほぼ1.5倍ほどの
広範な地域で昔からある遊びであること。虫は竹やぶから採集人が集めて売ること。ほとんどの人が小学校低学年まで
これで遊んだ経験を持つこと。虫は長生きだが、2〜3日遊んで飽きると火であぶって食べること。脚を含めてすこぶる美味で、
遊びよりも食べることが魅力だったこと……などがわかりました。
ゾウムシの脚には鋭い爪があり、手にしがみつかれると痛い上に引き離すのが大変です。前脚を折って竹に固定すると
虫は体が宙に浮いて捕まるものがなく、飛ぶしかありません。当然、虫車が回りやすくなるでしょう。いつ、
だれの創始になるものかは不明でしたが、ささやかながら立派な伝統玩具だと思いました。
虫は帰国後、専門家の同定で、チュウゴクオオオサゾウムシ(中国名・長足大象虫)という種類の中国南部亜種
であることがわかりました。ぼくはこの事例に偶然遭遇しましたが、世界中でこうしたローカルな食虫の例は
たくさんあることでしょう。
それにしても遊びとおやつを兼ねたこの「一石二虫」は、日本のお母さんがたにはたぶん感心されないでしょう。
残酷な上に気味悪いと。ただこれが残酷なら、ぼくの子供のころ日本でも、トンボのシッポをちぎって麦わらを差し込んで
飛ばす遊びがあり、あとで食べない分だけ、より残酷だったと思うのですが……。
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