第12回
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国産の冬虫夏草 左より、セミタケ(静岡)、オサムシタケ(東京)、アリタケ(長野産) (筆者蔵) |
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本家・冬虫夏草(フユムシナツクサタケ)
(1998年8月、大理市で購入、約5千円) |
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冬虫夏草のスープ (1996年11月、昆明市内雲南料理店) |
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冬虫夏草とは「夏には草として実を結び、冬には虫と化して動き回る」という意味で、その正体は、
昆虫を栄養として生じたキノコ(子のう菌類・麦角菌科)の総称です。種類が多く、寄生する虫もそれぞれに違っていますが、
虫とキノコが一体となったその奇妙な形は、洋の東西を問わず古来人びとの興味を引き、とくに中国では
不老長寿の秘薬としての幻想を生みました。
中でも、四川省やチベットの深山に産するコウモリガの一種の幼虫に寄生するそれは、今日でも薬膳料理に多用されているほか、
観光客の土産物としても各地で高価に売られています。いわばこれが”本家・冬虫夏草”です。
日本では17世紀の初めに中国から李時珍の大著「本草綱目」が渡来し、江戸時代を通じて医薬の原典となり、
これによって冬虫夏草の名も広く流布しました。また、あいついで国産の冬虫夏草も紹介され、とくにセミの幼虫に寄生する
セミタケはその形の立派さから王座格の存在でした。当時、日本では冬虫夏草を「虫から生じた菌」と正しく認識していた本草学者もいたものの、
一般的には動・植物の中間のものとみなされていました。
その後、明治の文明開化で冬虫夏草は出番を失い長く忘れられた存在になっていましたが、近年「冬虫夏草でがんが治る」
とか「中国女子陸上の馬軍団が常用している」などの話が週刊誌をにぎわせ、再び脚光を浴び始めています。また、
最近ではそのドリンク剤などが驚くべき高価で出回っています。
冬虫夏草はかつて皇帝のみが用いたと伝えられ、最近の中国の雑誌でも「呼吸器系の病気と精力増進に卓効があり、
料理に使えば甘味が増して格段にうまくなる」とあります。そのほか、効果は貧血、鎮痛、解熱からがんにまで及ぶというので
まさに万能薬です。
ただし、ぼくが試食した経験では、これぞという効果を自覚したことはなく、実情も依然伝承薬の色合いが濃いようです。
しかし、中国の友人たちが口をそろえて絶賛し、これで風邪などは一発で治るといっていますし、その歴史的な背景から見ても、
効果を否定するつもりはありませんが、強いていえば「まず信じる」ことが肝要と思っています。
一方、冬虫夏草は装いも新たに、害虫の天敵微生物としての利用研究が日本で開始され、その人工大量増殖の手法も検討されています。
たとえ冬虫夏草の「百歳にして子をなす」ような効果が怪しくても、可能性を秘めた興味ある素材であることには変わりません。
冬虫夏草を愛用し、薬効むなしく地下に眠る中国歴代皇帝たちは、この現代をどういう思いで見ていることでしょうか。
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