第13回
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写真1/
パン屑で飼育した九龍虫の成虫 |
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写真2/
九龍虫をサービスする小料理屋
(1965年ころ、横浜) |
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写真3/
雲南省の薬用昆虫「臭売虫(オサムシモドキの一種)」 (昆明市内花鳥市場、1996年11月、白く見えるのは餌に与えた飯粒) |
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「九龍虫」という虫があります。正しくはキュウリュウゴミムシダマシという体長6ミリほどの小さい甲虫で一世を風靡した薬用昆虫です(写真1)。
この虫を生きたまま服用すると活力が全身にみなぎり、時には鼻血まででるという精力剤で、
昭和初期と戦前および戦後1950〜60年代に3回の大流行がありました。当時、
かの鉄人アベベがこれを飲んでマラソンの覇者になったとか、某プロ野球選手がこれで首位打者になったとかのうわさが流れ、
この虫を酒に浮かべてサービスする小料理屋まで現れました(写真2)。
虫を飲み込むと苦しがって出す吐液が効くそうで、九龍虫は虫としては異例の知名度を誇っていました。
九龍虫は中国起源の虫で、その名のいわれには、香港の九龍半島由来説と、高貴万能を意味する「九」と帝王を表す
「龍」を組み合わしたとする二説があります。中国でも古くは精力剤のほか、ほかの薬草、例えば打ち身にはサソリと、
女童寝小便には枸杞と、目玉の痛みには甘草と共に用いるといい効果があるとされていました。
しかし、中国では薬用としてすでに姿を消し、そんな九龍虫がなぜ日本で空前の流行を生んだかはナゾです。幼虫は、
雑食性で穀類やパンくずや乾魚・乾肉などの動物質の貯蔵食品でも簡単に飼育でき、とくに朝鮮ニンジンで飼ったものが最高といううわさもありました。
また、戦前には1匹数十円という破格な高値で売られ、ついに「百害あって一利なし」
と販売が禁止されたという記録も残っています。
さてその効用ですが、吐液が分析されたという話もなく、真相は不明です。しかし最近中国の昆明市の市場で、
高山で採れるオサムシモドキという同じゴミムシダマシ科の大型の甲虫が大量に売られているのを見ました(写真3)。
たまたま同行の中国の若い友人の陳君がこれを何匹か買い、即座に生きたまま噛み潰してカスをペッと捨てたのには驚きました。
聞けば、カゼをひいてのどが腫れ、その消炎に卓効があるのだといいます。オサムシモドキは薬用昆虫としておそらく未記録ですが、
いやしくも陳君は昆虫学者です。その話の信憑性は高いはずです。ですから同じグループの九龍虫も効かないと断言はできません。ただ、パンくずなどの九龍虫の飼料が古くなれば各種細菌類が繁殖し、大量のコナダニ類も発生します。これを虫と一緒に食べてしまう影響は無視できないでしょう。
九龍虫の最後の流行から30年以上が経過しました。このまま昔話で終わるのか、前回の冬虫夏草の例もあり、
再びブームが到来するのか、判断がつきかねるところです。
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