第21回
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写真1/マツカレハの幼虫
(マツケムシ)
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セミを食べる子供たち(上)と集めたセミ(下)
(逃げないように片はねをちぎってある)。
(1964年、マダガスカル、アンボシトラ)
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昆虫が日常的な食料だった原始時代には、土地ごとに経験的に、食べられる虫、うまい虫、
たくさん採れる虫と発生シーズンなどの情報が親から子に伝承され、そうした”昆虫学”が高度に発達していたと思われます。
そうした記録が失われた今、昆虫の食用化に当たっての食用昆虫学を新たに構築する必要があります。ただ現代は、食品の加工や保存、
調理技術が格段に進歩しています。これを考慮すれば、味の善し悪(あ)しは別として、
体液に有毒成分を含む種類以外のほとんどの虫は食用化が可能と言えるかもしれません。
たとえば、松の害虫のマツケムシ(マツカレハの幼虫=写真1)は代表的な有毒の、刺す毛虫ですが、戦前に韓国で大発生したとき、
その食用化が検討されたことがあります。そして後年、亡父の友人からそのときの試食の経験を聞いたことがあります。
まずこの毛虫を鶏に与えたら間もなく死んでしまい、解剖したところ胃壁に毒毛がびっしり刺さっていて驚いたそうです。
ところが火で毛を焼き、皮を剥(は)いでから調理して食べたらこれがすこぶる美味で二度びっくりしたとか。また、
大阪市立自然科学博物館長だった故筒井嘉隆氏もこれにならってマツケムシを試食し、「かすかな香気があり、
舌ざわりも良くまさに珍味であった」と記しています(『町人学者の博物誌』1987)。
虫の食べ方は今も昔もほとんどが、生食、煮る、焼く、いためる、揚げるのいずれかです。
また、食虫地帯では発生シーズンをはずれても、塩漬け、干物などで保存されたものが売られ、
年間を通して料理店で供されていることも少なくありません。このケースでは、チェックできない保存法が問題で、
中には腐敗したものが売られていることもあります。こうした食材に慣れている現地の人と違い、
耐性のない人がこれを食べると危険です。
また以前、ぼくはマダガスカルの寒村で、子供たちが長い1本の棒を使って樹上のセミをたたき落とし、
翅(はね)をむしって火で軽くあぶって食べているのを見たことがあります(写真2)。虫にもよりますが、
こうした生食やそれに近い食べ方もまた、付着あるいは共生微生物の関係から避けるべきでしょう。
もしこの連載に触発され、虫を食べる気になった奇特な方がおられたら、まず、現地の人が食べている新鮮な旬(しゅん)の材料であることと、
一度高熱を通したものに限ることを厳守することをお薦めします。
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