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小をよく大を制す

 動物はとかくメスの獲得をめぐるオス同士の争いが熾烈になる。対してメスはどんなオスを選んでも自分の遺伝子の継承についての不安がない。 ほっておいても、勝ち残った強いオスがきて優性結婚が果たされる。

 甲虫の仲間にはオスが強大なツノを持つ種類が多いが、その機能については古くから多説があった。これが、餌場やメスをめぐる闘争の武器であることがわかったのは比較的近年のことである。 かくして、ツノの大きい個体が有利に自然選択される……はずである。

 ところがカブトムシ類の多くの種類は、大ツノの大型個体に混ざって、みずぼらしい小ツノの小型個体も存在し、これが連続的な変異ではなく、 “多型現象”であることがわかっている。どうして、メスをめぐる闘争に勝ち目が薄い小ツノの遺伝子が淘汰されてしまわないのであろうか。 最近、ある種のカブトムシで明らかにされたそのしくみは単純である。つまり、小ツノは大ツノよりも早く羽化し、強い大ツノが現れる前にさっさと交尾をすませてしまうという。
オニツヤクワガタの2型(台湾産)
Odontolabis siva
大キバ型 小キバ型

 同様に、大きな口吻を持つオサゾウムシの一種で調べられた例はもっとすごい。これにも小さな口吻を持つ小型のオスがいて、最初から大口吻とは争わず、 そっとその後ろに付いて歩く。やがて大口吻同士がメスの争奪闘争を始めると、その隙に傍観者のメスに近づき、ちゃっかり交尾をすませて逃げてしまうという。 もっとも、大口吻に見つかってはじき飛ばされるケースも多いというが、何回かのうちには必ず成功するそうである。

 近年、動物行動学が急速な発展を見せているが、それでもわかったことはほんのわずかである。ぼくも時どきこのたぐいの取材を受けるが、 後で必ず「その研究が何の役に立つか」との質問が付き、うんざりする。「ヒトを含む生物の進化という大命題の解明に役立つ」と答えてお引き取り願っている。

[研究ジャーナル,22巻・8号(1999)]



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