日本在来のニホンミツバチと、これに代わって欧米から導入されたセイヨウミツバチは、日本の国内で奇妙な関係を見せている。
まず、“ニホン”は養蜂(ようほう)の対象から外されたあと、山野で野生の生活に戻っている。“セイヨウ”も、逃げ出して野生化することがあるが、 それは人里に限られ、そこにはニホンの姿はない。 二種のミツバチの巣が近接していると、早晩ニホンの巣にセイヨウが侵入し、ためた蜜(みつ)を根こそぎ強奪してしまう。ニホンはその歴史の中でこんな荒っぽい相手はなかった。 無策でやられっぱなしである。 一方、ミツバチの大敵スズメバチ類に巣をおそわれるとセイヨウは単独で戦いをいどみ、いたずらに死体の山をきずきあげ、この敵の生活圏では野生化はできない。 これに対し、ニホンは、偵察に来た1〜2匹のスズメバチに、集団でむらがって“蜂球”を作り、胸部筋肉で発熱し、中の敵を熱死させるという。 これは玉川大学の研究陣が最近明らかにしたことで、このときの熱は、ニホンの致死温度よりもわずかに低い摂氏47度に達するという。 こうして偵察バチが本隊に連絡する余裕を与えず、この特技がニホンの山野での生活を保証している。 確立されている生態系にヨソ者が割り込むと、予期しない影響を与える。有用種といえどもその導入は慎重を期すべきであろう。 [朝日新聞夕刊「変わる虫たち」,(1989.2.18)] |
もくじ 前 へ 次 へ