ときどき大発生を起こし、街路樹を丸坊主にするアメリカシロヒトリは、終戦直後にアメリカから東京に侵入した外来者である。
このように、新天地でふるさとをしのぐほどに増えている虫が、新しい環境の下でどのような変ぼうをとげていくかという問題は、生物学的にも興味深いものがある。
そんな背景から、昭和40年代にわれわれ有志が研究会を作り、この虫の生理や生態の特性について多角的な研究を行った。
その一つ。アメリカシロヒトリは、人の住む、いわゆる“人里”に発生し、それから外れた山林などには住みつくことができない。 この虫の一生を追って、どの時期に何の要因で、どのくらい死んでいくかが詳しく分析された結果、天敵相の違いがその原因であることがわかった。 山林はとくに小鳥やアシナガバチなどの捕食者が多く、成育の途中でみな食われてしまうのに対し、人里は逆にそれが質量ともに少なく、 アメリカシロヒトリの増殖を保証しているというわけである。
これからもアメリカシロヒトリは、われわれのもっとも身近な場所で生活を繰り返していくことであろう。そして、日本の環境下での適応がさらに進み、 やがてはアメリカの仲間との縁をはなれ、新しい種に生まれ変わっていくかもしれない。 [朝日新聞夕刊「変わる虫たち」,(1989.3.13)] |
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