渓流釣りに使うエサとして「ブドウ虫」は昔から有名である。その正体はブドウやエビヅルの枝の中を食い荒らすブドウスカシバというガの幼虫で、
幼虫入りの枝を束ねて釣具店で売られている。しかし、大量に飼うことができないため、最近では飛び切り高価なエサとなっている。 一方、近年これに代わって養殖された“ブドウ虫”が出回り、人気を呼んでいるが、これは本家の“天然物”とは別種のハチミツガというガの幼虫である。 このガはミツバチの巣を食い荒らす有名な養蜂害虫であるが、人工飼料による大量飼育が可能で、実験用の虫としても世界的によく知られている。 ハチミツガの幼虫は皮膚がほどほどに硬いので、針につけやすく、またイワナやマスも好んで食べることから、新興のエサとして台頭してきた。
ただ、小型なのが難点であったが、これもさるメーカーが特殊なホルモン操作によって体長も体重もほぼ「本家ブドウ虫」に匹敵させることに成功し、 大々的な生産が行われつつある。また、このホルモン操作は、幼虫がサナギになることも抑制し、エサとして長く使えるとともに、逃げ出したものが増えて養蜂家に迷惑をかけることも防いでいる。 虫を変えるバイオ技術は、実に釣りのエサにまで及んでいる昨今なのである。 朝日新聞夕刊「変わる虫たち」,(1989.4.19) |
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