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人造益虫

 虫はさまざまな病気で死に、その病原体は害虫防除の重要な素材となりつつある。しかしそれとは別に、この病原体の遺伝子を組み換え、 量産の困難な有用物質を生産できるようにして、さらにそれを虫体を通して大量に得ようという研究も活発化している。

 最初の成功はアメリカで1982年に発表された。まずガの仲間のウワバの一種の幼虫に寄生するウイルスに、抗がん剤などに用いるインタフェロンの遺伝子を組み込んだ。 次いでこの“組み換えウイルス”をウワバの培養細胞で増殖させて、インタフェロンの大量生産を可能にしたのである。続いて日本でも、 カイコのウイルスを用いて同様の成果を得ている。

昆虫を用いた有用物質の生産(例)
 虫の病原ウイルスは、生きた細胞でしか増殖できないので、虫の細胞を大量に培養する必要があるのだが、培地に牛の血清を用いるため、高価なものにつく。 しかし、日本の場合は組み換えウイルスをさらにカイコの生体で増殖することにも成功している。

 これらの技術開発によって、現在までに200種類を超えるたんぱく質を、虫体を利用して病原ウイルスに大量生産させることに成功し、 一部はすでに企業化までされている。

 ヒトの織り成す物質文明は、一部の虫を害虫に変えたが、一方では、先端技術の進展が新たな“人造益虫”を作り出しつつある。
 

朝日新聞夕刊「変わる虫たち」,(1989.4.22)


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