最近、体長8pのオオクワガタをある社長が1千万円で買い取ったことがマスコミで大きく報じられ、外電を通じて日本人の金持ちぶりが国際的な話題にもなった。 日本には、“昆虫商”に二つの系列がある。
もうひとつは、マニアックなコレクターを対象にした昆虫標本商で、店主自身がすべて虫マニアである。日本にはこうした標本商が数十軒あり、 内外の美麗・珍奇昆虫を主な商品としている。また、同じ昆虫商ながら養殖業者との交流もまったくない。 さて、くだんのオオクワガタであるが、さすが8cmともなるとたしかに『ギネス』級ではある。しかし“1千万円”はこれまでとかく悪評のあった業者の“ヤラセ”だったと、 ある週刊誌にすっぱ抜かれた。知人のコレクターの査定では、バブルのころならいざ知らず、現在の標本商価格ならせいぜい50〜100万円程度であろうとのことである。 標本商も、世界各国からの仕入値と販売価格には大差があり、さぞや大もうけと思われがちだが、これでビルを建てたような標本商は1軒もなく、 たいていはほかの商売と兼業している。売れる標本も美麗チョウや大型昆虫類などに限られ、顧客も推定2万人程度しかなく、それも“いい客”なのは一通り買い集める最初のうちだけである。 新設博物館のまとめ買いなどのオイシイ機会は、標本商の数よりはるかに少ない…などが理由である。 ちなみに虫好きの標本商には、商売だけの養殖業者と一緒にされたくないという自負がある。ただ商売上は、推定5千人を数え、年商数億円に達する業者もあるという養殖業者の圧勝である。 標本商が遅れをとっているのは、やはり好きなことを商売にしてはならぬという鉄則のツケであろう。昆虫学者の中にも虫マニアの出身者が少なくないが、 こうした事情でたいていはそのことをナイショにしている。ぼくを含めて……。 研究ジャーナル22(10)1999 |
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