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虫の山火事センサー

 期待される昆虫の産業的利用のジャンルのひとつに、昆虫やその機能を利用したバイオセンサーの開発がある。この研究は世界的にもまだ緒についたばかりだが、 関連したおもしろい報文が「ネイチャー」に出ていたので、簡単に紹介しておきたい。

 ナガヒラタタマムシ属 Melanophila の甲虫の幼虫は、火災で燃え落ちた樹木の中だけで生育する。このため、メス成虫は50kmもの遠方から森林火災を探知して産卵のために飛来する。 そして調査の結果、この虫の触角が、臭覚刺激によって燃えた樹木の煙に含まれる物質を感知していることを発見した。

 タマムシ(M. acuminata)の生体から切り離したばかりの触角を、電子触覚グラフィックと検出器を装着したクロマトグラフィーに接続し、 松材(Pinus sylvestris)を燃やして得られた揮発成分を注入した。その結果、2-メトキシフェノール(グアヤコール)の誘導体に強い生理活性反応が認められた。 フェノール化合物の化学構造は燃えた樹種で異なるが、この虫はグアヤコール誘導体に敏感で、十億分のいくつかの濃度単位(ppb)でこれを探知できる。 さらには、揮発物質のパターンによって樹種も特定できることもわかった。触角のこの感度は、直径30cmの松の樹皮が高さ2m、深さ1cmまで燃え、 弱風下で1時間に7gのグアヤコールを放出した場合、1km以上離れた場所で探知できると評価された。

 こうした成果を応用に結びつけるにはまだ多くのステップが必要だが、著者たちはこの研究が将来的に、店舗や公共の建造物の火災探知、 早期発見の困難な森林火災の警報システム等の開発に寄与できる可能性を示唆している。

 ちなみに、この続きの研究は日本でもできるかも知れない。図鑑で調べたら、ツメアカナガヒラタタマムシ M. obscurataという同属の別種が日本にも分布していて、 解説に「体長7〜12mm。マツ科の針葉樹の枯れ枝につく。成虫は油煙に飛来することがある」とあったからである。

S. Sch tz, et al. (1999) Insect antenna as a smoke detector. NATURE, 398:298-299.

[研究ジャーナル,23巻・7号(2000)]



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