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世界最小の虫

 昆虫類は体が小さいことが特長で、大部分の種類が体長10mm以下の小型種で占められている。「ギネスブック」によると、 ある種の甲虫と寄生バチの一種の体長がともに0.2mmで「世界最小の昆虫」である。また、後者の体重は0.005mgで「最も軽い」とある。 実に20万匹で1円玉と同じ1gの重さである。

日本で発見された
アザミウマタマゴバチの一種
Magaphragma sp.(♀)
(高木 一夫氏原図)
 しかし、アザミウマ類の卵寄生バチの一種が昔アメリカから記録され、最近近似種が日本でも見つかった。そのメス成虫(オスは未発見)の体長は平均0.18mmしかなく、 飛ぶこともできる。これぞ世界最小....と思われた。ところが、1997年にアメリカから発表されたチャタテムシの卵寄生バチの新種は、オスに翅がなく、 その最小個体の体長はわずか0.139mmだったそうである。体長から換算すると、おそらく体重は0.002mg以下と思われる。50万匹で1g!軽さでも文句なく世界一であろう。

 最近は、昆虫の形態や運動機能が、小型ロボットやマイクロマシンの絶好のモデルとして工学の分野でも注目されている。しかし、物体には寸法効果があり、 長さを2分の1に縮小すると体積では8分の1になる。ジャンボ航空機を小さくしても、表面積と体積とのバランスが変わって摩擦が大きくなり、 簡単には飛ばすことができない。だから、微少昆虫をまねて、飛翔や歩行行動を人為的に制御できるロボットを開発するのは、火星に行くよりも難しい技術になろう。

 こうしてみると、どんなに小さい昆虫でも生存のための複雑で高度な機能をすべて備え、地史的な年月を代々生き抜いてきたのはまさに驚異といえる。 近年は昆虫類のさまざまな機能の産業的利用研究が活発化しているが、それはまだ”氷山の一角”に過ぎない。依然として昆虫たちはナゾに包まれた”不思議の国の妖精たち”であることには変わりないのだ。

[研究ジャーナル,23巻・11号(2000)]



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