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動物ばなれ

 上野動物園(東京都恩賜上野動物園)は明治15年(1882)に設立され、百年以上経過した平成10年(1998)に3億人目の入園者を記録した。 戦争中には都民の安全をたてまえにゾウやライオインなどを餓死させる不幸な時代を経たが、戦後は入園者が漸増を続け、パンダブームの昭和49年(1974)には年間760万人台のピークを迎えた。 この間、動物も当初のほぼ4倍の400種近くに充実し、展示方法も檻をなくすなどの格段の進歩をとげた。また昭和39年(1964)には、旧友の矢島 稔氏の尽力で、 外郭団体の東京動物協会から月刊誌「インセクタリゥム」が発刊され、続いてその母体として昆虫愛好会が設立された。以来37年間、この雑誌は編集者にも恵まれ、 日本の代表的な昆虫の一般誌として昆虫学の普及に多大な足跡を残した。ぼくにとってもそれはかけがえのない情報源であった。

 ところが時代は変わる。その後、入園者数は減少の一途をたどり、現在はピーク時の半数以下にまで激減した。ディズニーランドが開園15年間で2億人を越えたのとは対照的である。 最近、県や市立の自然史博物館があいついで設置され、生物専攻の学生の就職先が広がったのは喜ばしいが、それと子供たちの”動物ばなれ”は矛盾している。 博物館の新設は文化事業として予算化しやすい背景があろうが、その運営が破綻しないことを切に祈りたい。少なくとも今の子供たちには人工の遊び相手がいくらでもある。 昆虫少年の消滅は、開発が身近な虫たちを放逐したためばかりでなく、機械化文明が生み出した現代社会の構造的な現象と思える。
上野動物園入口
(東京動物園協会提供)
パンダのお披露目が
上野動物園の最盛期であった。

(東京動物園協会提供)

 ぼくは、21世紀は「生物の時代」になることを信じているが、そうした時代の中枢をいまの動物ばなれの子供たちが担うことに、一抹の不安を感じている。 最近の高校や大学の生物関連の受験問題を見ると、膨大な暗記を必要としてとても難しい。教師のかたがた、「生物」は暗記の学科ではないことを教えてほしい。 父兄のかたがた、お子さんをファミコンから引き離して動物園に連れて行ってほしい。「インセクタリゥム」は20世紀最後の月に、動物園協会の財政事情の悪化から突然廃刊され、 愛読者の嘆きの声の中でその歴史の幕を閉じた。

インセクタリゥム誌

[研究ジャーナル,24巻・3号(2001)]



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