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姓名表記

 昨年の6月某日、朝日新聞の「天声人語」欄に姓名表記に関するコラムが掲載された。主旨は、「日本人名をローマ字で書く場合、 欧米にマネてなぜ”名一姓”と表記するのか、日本の習慣にしたがって”姓−名”の順で書けばいいではないか。この結果、 韓国大統領と日本の首相の姓名表記が逆になったりするおかしなことが起こりかねない」というものであった。

 ぼくはおせっかいとは思ったが、早速反対意見を編集部に送った。「これは科学の分野などでは混乱を招く。欧文の論文等で国際的な決まりこそないが、 ”名−姓”で書くのはルールで、これによって正しく文献が引用できる。これが国によって”姓−名”と表記するとなると、どちらが姓かわからず、 いたずらに混乱を招くばかりである。外国語で文章を書くなら、その国のルールに従うべきではなかろうか。韓国大統領と日本の首相の姓名表記の話などは単なる比喩で、 日本語の文章の場合こんなケースは起こり得ない。これはひとつの意見とは思うが民族の誇りとは次元の違う話である。」これに対して新聞社から丁重な礼状が来たが、 当然ながらそれだけで終わった。

 実は中国の外国語論文は伝統的に中国人名を”姓−名”の順でそのまま使っている。たとえば、「黄光博」という人は”姓−名”の順に「Huang Guangbo」となっており、 ぼくを含めてこれを引用する側は「H.Guangbo」と”名”の方を”姓”とみなしてしまうケースが多々見られる。一昨年訪中したさい、 さる科学院の高官と会食をする機会があり、このことを話したら、「早速正すようにする」と約束したが、現在までそうした通達が出された気配はない。

 読者諸賢にはまた異なるご意見もあろう。この「コーヒーブレイク欄」を通じて伺えればさいわいである。

[研究ジャーナル,24巻・4号(2001)]



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