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一連托生

 ”思わず笑っちゃった話”。深く考えれば笑って済む話ではないのだが……。

 先輩のT氏の語る−−東南アジアの某国で2年間稲作の指導をした。オレのモデル水田は通常の倍以上の収穫を挙げて評判になった。 農民も大勢見学に来たし、おおいに面目を施して帰国した。ところが呼ばれて翌年また行ったところ、なんとそのモデルの水田は草だらけの荒れ地になっていた。 理由を聞いたら「おかげさまで、ここは去年倍穫れたので今年は作らなくても済んだ」だと! 

 I県農業改良普及員のG嬢の語る−−家の近くの鍾乳洞で歯だけが露頭している人骨の化石らしいものが見つかり、 「原人発見か?」と新聞にまで出て騒ぎになったの。ところが発掘を始めたところ、歯の下に歯グギがついていてみんなビックリ!  だれかが落とした入れ歯だったんだって。

 高いポテンシャルで注目されているV国の都会には、観光客目当ての子連れの乞食が多い。ぼくはそうした親子がふびんで、 見かけると必ずいくばくかの施しをしたが、後で聞いたらその子供たちはすべて”1日なんぼ”のリースだそうである。

 同僚のS氏の語る−−さる事業団からV国に派遣された知人夫婦が、子供をメイドに預けて旅行に出かけ、予定より早く帰って来た。 すると街角で奥さんが「あの子ウチの子そっくり」と言う。見たらメイドが子供を連れだして乞食のアルバイトをしていたんだって。

 虫仲間のU君の語る−−孫の捕まえたコオロギのような虫を娘が持ってきて、名前を教えてくれという。 即座に「コロギス科のコロギス」と教えてやったら、「コオロギとキリギリスを混ぜたウソだろう」と信用しない。語源はその通りだが、 これはレッキとした標準和名である。以前、あるSF小説から「野菜試験場でゴボウとニンジンをかけ合わせた”ゴボジン”という新野菜が開発され、 これだけでキンピラゴボウが作れると評判になっている」というホラ話を聞かせたことを思い出したらしい。

 同じくU君の語る−−出張先の南米の山奥で、捕虫網を持った顔中ヒゲだらけのヒッピーのような青年に出会った。 英語で話しかけたら、彼は2年間も世界を放浪中の日本の青年であった。そして彼から「Y駅前で姉が喫茶店をやっているので、 行く機会があったら元気だったと伝えてほしい」と頼まれた。たまたまY駅はぼくの通勤路だったので、帰国して早速写真持参でくだんの姉君を訪ねた。 姉君はともて喜んで、注文しないのにコーヒーやケーキからビールまでごちそうしてくれた……のではなく、帰りにちゃんと全額を請求された。 ちなみにその姉君はたいそう美人だった。

 友人のK君の語る−−某出版社の人と夕方自宅で会う約束があり、早めに帰宅したら玄関に息子のスニーカーが脱いであった。 息子に「客が来るからこんな汚い靴は片づけておけ」と大声で言ったら、息子は不在で靴はすでに来ていた客のものだった。気まずく、 家内の出した菓子を「T市は田舎でロクな菓子がなくて」と言い訳したら、その菓子も客の土産だった。 

[研究ジャーナル,24巻・6号(2001)]



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