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国産のサソリ2種
(上:マダラサソリ<石垣島産>、 下:ヤエヤマサソリ<西表島産>)
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サソリはクモ綱のサソリ目に属する動物で、世界の熱帯〜温帯から約1,400種が知られている。
日本では古くから嫌われ者のたとえに「蛇蝎(だかつ=ヘビとサソリ)」という言葉があった割りにはサソリは幻の毒虫で、
その猛毒性だけがひとり歩きしてきた。ぼくが戦後間もなくのころ観た「風雲さそり谷」という日本映画にも、
忍者が操る猛毒のサソリが登場したが、本物が入手できなかったらしく、たどたどしく代役を務めていたのは何とアメリカザリガニであった。
それでも観客は恐がってくれたのだ。実際には命にかかわるようなサソリはほんの一握りの種類だけで、
大部分の種類は刺されても事件になることはほとんどないのである。
あまり知られていないが日本にも2種のサソリが分布している。ひとつは熱帯アジアから八重山諸島に住む体長約4cmのヤエヤマサソリ(写真)で、
人を刺す実力はない。もうひとつは世界の熱帯〜亜熱帯の広域に分布する体長6cm内外のマダラサソリで、
日本でも八重山諸島と小笠原諸島に移入・定着している。これは人を刺すことができるが、毒性は弱く、治療を要するほどの実害が生じた事例はない。
最近はペットブームに乗って東南アジア産の大型サソリ類がデパートなどでも売られ、往事よりも実物を目にする機会が増えてきた。
また、輸入木材に潜んだサソリが日本の港湾でよく発見され、マスコミをにぎわせてもいる。
そしてこれらの中にはまれに猛毒種が混ざっていることもある。日本ではサソリの抗血清を持つ医療機関がほとんどなく、
こうした種類に刺されると大変やっかいなことになろう。
国外の農業害虫については植物防疫法で厳重な検疫が行われ、侵入防止が図られているが、毒蛇やサソリなどの有毒動物、
カやハエなどの衛生害虫に対しては法的な輸入規制がない。一方、天敵寄生蜂のような肉食種やマルハナバチのような花粉媒介昆虫も検疫の対象外で、
自由に輸入できる。最近では、生きた大型のカブトムシ・クワガタムシ類も害虫ではない理由で輸入が解禁され、
コンビニにまで登場してマニアを喜ばせている。
こうした昆虫の輸入自由化に対し、たとえ有用種や人間生活と無関係の種類でも、無規制の輸入は日本の生態系を攪乱する恐れがあると警鐘を鳴らす識者も多い。
しかしなぜか、農林水産省の所管外の有毒動物や衛生害虫の従来からの輸入野放しについては、ほとんど批判の声が聞かれない。
まことに奇異なことである。
[研究ジャーナル,25巻・5号(2002)]
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