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蛍の光、窓の雪

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台湾の切手
「蛍の光」の故事を
描いた台湾の切手
「嚢螢夜話」
(1975年発行)
 明治14年(1881)選定の文部省唱歌「蛍の光」は、周知のように「ほたるのひかりまどのゆき、書(ふみ)よむつき日かさねつつ……」の歌詞で始まる。 これは、中国の晋の車胤が灯油を買う金がなく、ホタルを集めてその光りで書を読み、同じく孫康が窓辺の雪明かりで勉強したという有名な中国の故事に由来する。 しかし、窓の雪はともかく、蛍の光で本当に本が読めるのか、真偽の意見が分かれるところである。

 日本にはホタルの仲間が45種ほどいて、光らない種類が大部分だが、光る種類ではゲンジボタルがもっとも明るい。そこでこれを用いて実際に読書を試みた人がいる。 雑貨商を営むかたわらホタルの本まで出している南喜市郎さんがその人で、その実験によると、千匹ずつカゴに入れて新聞紙の両側に置いたらよく読めたという(南、1961)。 が、合計2千匹という数はあまりにも多過ぎる。その上、短命でのべつ補充が必要になり、光も点滅して連続的な一定の照度を保証してくれない。 まずホタルを使った実用的な読書はとうてい無理筋と思われる。

 反論もある。車胤の故郷の福建省には大型で光の強いタイワンマドボタルがいて、これならば20匹ほどで何とか本が読めるという。だからこの故事もあながちウソとは言い切れない。 しかし、ぼくは別の視点からこれを作り話と断定している。これだけのホタルを集める労力を使えば灯油代くらい楽に稼げるだろうと思うからである。

 発光昆虫を照明に利用している例は実際にもある。中南米に住む大型甲虫のヤコウコメツキは明るい緑色光を放ち、原住民が常時飼っていて、 夜道を歩くとき数匹を足に縛りつけて足下を照らすという。また、パナマ運河の建設当時、この虫の光で急患の手術をしたという話も伝えられる。 さらに南米ではホタルをビンに入れ、水中に吊して集魚灯に使っているそうであるが、これもホタルではなくこのコメツキムシである可能性が高い。 ギネスブックにこそ出てはいないが、このコメツキムシこそがホタルを押しのけて、世界一明るい虫といえよう。もっとも、発光昆虫の灯火的利用の本命は、 その発光機構を完全に解析して"本物の蛍光灯"を作り出すことであろうが、残念ながらこれはまだ実用化の域に達していない。

[研究ジャーナル,26巻・3号(2003)]



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