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クサカゲロウ成虫 |
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1951年(昭和31)7月29日付のM新聞記事 |
クサカゲロウはアミメカゲロウ目の昆虫で、英名で lacewing-flies(レースの翅の虫)または aphis-lions(アブラムシのライオン)と呼ばれている。
ずいぶん異なる英名だが、前者は成虫の繊細な翅に由来し(写真),後者はアブラムシなどを捕食することに由来する。とくに幼虫は強大なキバを持ち、
農作物害虫の有力な天敵として、欧米では天敵販売会社の主力商品になっている。大量増殖した卵が売られ、日本でもその利用開発研究が開始されている。
特徴的なのはその卵で、雌が腹の先から葉面に一滴の液を落とし、腹を持ち上げるとそれが糸状に伸びて固まり、その先端に卵を生む。
同じ場所に何本かまとめて産卵するが、糸が細いので卵が空中に浮遊しているように見える。また、成虫は明かりに飛来する性質があり、
よく電灯の笠などにも産卵することがある。そして、古く日本ではこれが植物と誤認された。それも、3千年に一度花が咲き、
開花のときには如来が世に現れるという伝説の"うどんげ(優曇華)の花"とされたのである。
昆虫少年にとって情報の乏しかった終戦後しばらく、ぼくは新聞や雑誌で昆虫関係の記事を見るとマメに切り抜いて集め、
その当時のスクラップブックが1冊今も手元に残っている。半世紀を経過したいま、それはまことに興味深く、ぼくには昆虫民俗学的な別の価値が生じている。
たとえば図の新聞記事もそのひとつで、内容は「三千年に一度咲くという"うどんげの花"が江東区の誰それの自転車のスポークに十三本も咲いた」というものである。
とにかく「咲いた」で説明を終わっているところがスゴイ! まあ今でもそんな無責任な記者がいないわけではないが……。
クサカゲロウの成虫は死ねば褪変色するが、淡緑色の美しい生きた成虫を見るのは簡単である。夏に市販のマタタビの実の塩漬を皿に乗せて窓を開けておけば多数の雄が飛び込んでくる。
マタタビがネコばかりではなく、クサカゲロウも誘引することを発見したのは石井象二郎博士で、誘引成分の化学構造はネコもクサカゲロウも似るが、
感応基(ラクトンとアルコール)だけが違うという。また、クサカゲロウは雄しか誘引されないことから、この物質は交尾となんらかのかかわりがあると推定されている。
ちなみに、クサカゲロウの"クサ"は"草"ではなく、"臭い"の意味で、見かけによらず成虫には特有の強い悪臭がある。
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