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ナミブ砂漠の奇虫


 情報協会のホームページには一般ユーザーからたくさんの質問が寄せられ、ときどき虫の質問がぼくのところに回ってくる。 その中で、翻訳者からの虫の名前の問い合わせがけっこう多い。これが難解で、外国の虫である上に、学名もなく、英名だけというのもあり、 苦労して調べた結果が虫ではなかったりする。

 アフリカの南西部に広がるナミブ砂漠は面積こそ14万km2と余り大きくないが、特殊化した動植物の宝庫として知られ、 砂漠の科学映画のロケ地としても花形的な存在になっている。このため、翻訳者からの質問もこの砂漠の昆虫に関するものが多く、 ここに紹介するゴミムシダマシ科の甲虫もそのひとつである。

 ナミブ砂漠は年間降雨量が120mmという極端な乾燥地で何百年も雨の降っていない場所もあるという。ただ、この砂漠には夜になると風に乗って海から濃い霧が流れてきて、 それがここに住む生物に最低限の水分を保証している。それでもこの極限条件に住む生物にとっての水の確保は大問題で、皮膚を厚くして蝋物質を分泌するなど、 水分の蒸散を防ぐためにそれぞれ趣向を凝らしたしくみを発達させている。

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 とりわけこの砂漠特産のキリアツメ属のゴミムシダマシ類は、体長2cm内外のあまり見栄えがしない黒色の甲虫ながら、 水分を摂取するために驚くべき行動をとる。夜、海から霧が流れてくると、彼らは忙しく歩き回り、砂漠の表面の風紋の高くなった場所で、 長い中脚と後脚を伸ばして逆立ちしたような姿勢をとる(図)。そして夜霧を全身で受け、体表に結露した水分を体表伝いに口の部分に流し集めて飲む−−というわけである。

 「キリアツメ属」という和名はこうした習性から、分類学者の中條道崇氏が1993年に命名したものである。日本とほとんど無縁の外国の虫にまで日本語の名前をつけることには賛否両論があるが、 少なくともぼくはこの分かりやすい和名のおかげで、翻訳者の質問にあまりクドクド説明せずに済み大いに恩恵を受けている。

[研究ジャーナル,26巻・12号(2003)]



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