映画『あつもの』について |
上村 遙 |
昨年、池端俊策脚本家・監督の依頼を受けて、映画「あつもの」に使用する大菊厚物300鉢を栽培し、各シーンの菊配置を担当しました。 私は映画の主人公と同じ64歳で、同じように子供の頃から菊のとりこになって生きてきた男として、精一杯良い映画になるよう協力し、 ひとりでも多くの方に菊の魅力を分かって頂きたいとの思いで1年間を過ごしました。 その中で、主人公の少年時代回想シーン撮影の際、カメラの照明調整の間、仮の菊が置かれている間は無表情だった少年俳優さんが、 本番用の菊に置き換えた瞬間「スゲエ」と大声を出したのです。 やっぱり見事な菊の良さは分かってくれた、と知って感激しました。 その花がこの白の厚走りの花です。 |
「厚走り(白)」 |
劇場用公開映画「あつもの」 日本/1998 |
TVドラマを中心に活躍し、数々の賞を受ける名脚本家「池端俊策」が長年温めてきた脚本をもとに、自ら監督として初挑戦する骨太な本格ドラマ。
北陸の小さな町で家庭を顧みることなく「消防と菊作りだけの人生」を過ごしてきた真面目でおとなしい杢平(64歳)は、定年を機に息子夫婦の住む関東近郊へ身を寄せる。 妻の夏美は孤独から生じたアルコール中毒のため東京郊外の精神病院に入院する。息子夫婦も土地の権利や借金などで複雑な問題を抱えている。 そんな中で杢平は、ひたすら菊作りに精魂を傾け続ける。 北関東には全国的に名を知られた菊作りの名人の玄一(64歳)がいる。彼は、菊作りにかけては折り紙付きの実力者だが、 偏屈で欲深い性格から地元の同好会になじめず、山奥で一人暮らしを続けている。 それぞれに孤独を噛みしめながら、菊を咲かせることに情熱を傾けてきた老齢の男二人が、音楽の才能に行き詰まり悩む若い女ミハルを介して再会する。 幼い頃、玄一の作った厚物に魅せられてから、自分の人生の大部分を菊作りに賭けてきた杢平であったが、玄一は孤独にあがき、ミハルの若さに迷って醜悪な姿をさらす。 菊作りの秘法との交換条件でこの場を見逃してくれという玄一の訴えを振り切り、杢平は自力で作り出した厚物で玄一名人との勝負に出る。 そして迎えた関東大菊花展、二人の勝敗の行く方は? この映画は、人生の秋の日に対峙する二人の菊作り名人の孤独と情熱の哀歓を静かに見つめ、豊麗かつ雄大な菊の魅力を余すところなく映像に納めている。 洋の東西や老若男女を問わず、厚物の幽玄な映像を目にした人は、日本を代表するこの花に対して無関心ではいられなくなることだろう。 当代随一の脚本家念願の企画と最高の役者の組み合わせにより、最高の素材を調理して産み出された重厚な映画作品である。 |
●監督・脚本 : 池端 俊策 ●出 演 : 緒形 拳、ヨシ笈田、小島 聖 他 ●公 開 : 99年秋公開 製作・配給:シネカノン 製作協力:ケイファクトリー
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映画撮影シーンより |
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